緊急事態宣言中に東京都が出した時短営業の命令が違法だとする判決が16日、下った。訴訟を起こしたのは「ラ・ボエム」「権八」などを展開する飲食チェーン「グローバルダイニング」。同社は最近、従業員へのマスク着用を推奨することをやめたと発表していた。マスク着用をやめることで何が起きたのか。長谷川耕造社長に聞いた。

 昨年3月、都は新型コロナウイルスの対策特措法に基づく時短営業命令を27の飲食店に出していた。そのうち26店舗がグローバルダイニングで、さらに緊急事態宣言が終わる直前の命令ということもあり、“見せしめ”との指摘もあった。

 同社は都の時短命令が営業の自由を保障する憲法に違反するのではないかと提訴に踏み切っていた。損害賠償の請求額は104円だった。

 東京地裁(松田典浩裁判長)は16日、命令は発出要件の「特に必要がある」場合とは認めず、違法とした。一方で小池百合子都知事の過失責任を否定し、賠償請求は棄却した。命令の違憲性については「特措法の目的に照らして不合理と言えず、営業の自由は侵害していない」と合憲とした。

 弁護団の倉持麟太郎弁護士は「実質勝訴、形式敗訴」と評価。弁護団によるとすでに控訴しており、控訴審では小池氏の尋問を求めていく予定だという。

 この裁判とは別に、同社は世間の注目を集めていた。13日に同社サイトで店の従業員にマスク着用を推奨していないことを表明。つまりマスクをしない従業員がいるぞと言っているのだ。4月末からそうしていたという。

 判決後の会見でも長谷川氏はこの件に言及。

「お客さんからメールでいろいろいただいたのですが批判は一つだけ。『ある店舗に行ってみたら、ほとんどのスタッフがマスクをしていた。長谷川さん、何やってんの』というものだった。あとはお褒めの言葉だった」

 マスクをしていたことで「話が違うじゃないか」とお叱りのメールが来たというのだ。

 会見後に長谷川氏を直撃した。従業員へのマスク着用の推奨をやめたことで客足に変化はあったのか。

「ゴールデンウイークが明けたら例年なら売り上げが下がるのですが、この1週間に限ると思ったより下がっていません。その点はマスクのことも関係があるかも。そのためにやったわけではないですが」と、下げ止まりに影響したかもしれないと明かした。

 昨今、マスク着用をめぐって議論になっていることについてどう思うのか。「集団心理で『礼儀だから』ってみんなマスクしてます。マナーとも言うけど、自分の顔を隠してマナーなんですかね? マスク自体もオシャレなものも出てきて、外したくないって人もいます。普通、帽子をかぶってマスクして夜中歩いていたら職務質問されますよ。悪いことをする人がこういう格好するんだから」と思うところがいろいろあるようだ。

 日本人の国民性からみても政府から脱マスクのタイミングに関する発信を求める声もある。「政府から発信した方がいいんじゃないですか。人気も上がると思いますよ」と長谷川氏は政府のリーダーシップを求めた。

 同社の取り組みが波及するか注目だ。