【取材の裏側 現場ノート】大相撲夏場所(東京・両国国技館)は22日に千秋楽を迎える。3月に日大大学院を修了した小結大栄翔(28=追手風)は初日に横綱照ノ富士(30=伊勢ヶ浜)を破って白星発進。12日目には幕内玉鷲(37=片男波)を下し、勝ち越しを決めた。

〝一日一番の集中力〟は学業でも発揮された。同大学院では2年間、ファミリービジネスについて学び、角界の部屋運営や親方のマネジメントを研究。担当の加藤孝治教授(58)によると、大栄翔はゼミとは別に経営学といった科目を1年目に5科目、2年目に1科目履修したという。

 各科目は課題に対してレポートを提出する形式。加藤氏が「(1年目は)約20本のリポートを出さないといけませんでした。1本あたり5000字から1万字の量が求められますし、1回出したら終わりではなく『ここが違う』『ここをもう少し考えて』と言われることもあるので、よく頑張ったと思います」と振り返るように、過酷なノルマが課されていた。

 修士論文は「相撲界の継承発展」をテーマに執筆した。大栄翔は場所前の取材で「40ページぐらいですかね。1万字超? それぐらいだったと思います」と話していたが、加藤氏は「5万字とか6万字ぐらいの字数だと思います。A4用紙50枚、1枚1000字と考えるとそれぐらいの字数になりますよね」と説明。実は5倍近くの字数だったのだ。

 こうしてリポートや論文の作成に多くの時間を費やしたが、大栄翔はあくまで〝本業〟を優先。「本場所や直前の稽古があるので2か月のうち1か月はほぼ学習ができない状態。ですから、半分の時間に詰め込んで頑張ってくれました」(加藤氏)。まさに人一倍の努力で修士号を手にした。

 鍛え上げた大きな手でキーボードを打つことは至難の業。ただでさえ慣れないパソコン作業に悪戦苦闘した。しかし、研究に関して一切手を抜くことはなかった。

 そんな〝修士力士〟が論文に込めた思いについて、加藤氏が次のように明かしてくれた。

「相撲界になかなか若い人が入って来てくれないと。10年、15年後を見据えて、彼らが親方世代になったときにどのように盛り返していくべきかと問題意識を持っていたのが印象的でした」

 続けて「そこで彼自身が少年相撲をやっていたように、小学生が相撲と触れ合える機会をどうすれば生み出すことができるのか。巡業先の(地方の)人たちも含め、社会や子供たちにどのように接して情報発信できるのかを述べていましたね」

 一方、2年間の大学院生活を終えた大栄翔は「簡単ではないんですけど、確実に自分のためになることだと思いましたので、そういう意欲のある人はぜひやってほしいですね」と充実の表情だった。まだまだ現役として土俵に立つが〝第2の相撲人生〟も楽しみになってきた。

(大相撲担当・小松 勝)