【ニュースシネマパラダイス】どうも! 有村昆です。朝鮮中央通信によると、北朝鮮で新型コロナウイルスの感染が疑われる発熱者の数が、4月末以降累計で294万人を突破したそうです(23日現在)。医療資源が乏しいので「柳の葉を煎じて1日3回飲む」とか「塩水で口をよくすすぐ」といった民間療法を奨励しているとか。経済的にも、より苦境に陥る国家の危機にあります。

 そこで、今回はドキュメンタリー映画「太陽の下で―真実の北朝鮮―」(2017年公開)をご紹介しましょう。メガホンを取ったのは、ロシア人映画監督のビタリー・マンスキー氏。14年の撮影当時、8歳だった少女リ・ジンミちゃんが「朝鮮少年団」に入団し、故金日成主席の誕生日「太陽節」を祝う行事を準備する記録映画として撮影が始まりました。

 ところが、登場する人物はみんな「我が国はこんなに良い生活をしていて、国民は規律が正しく、将軍さまを尊敬している」の一辺倒なんですよ。撮影中、マンスキー監督も、カメラの前にいるのは、北朝鮮側が用意した人物であり、演出だということに気付きます。まあ、当たり前ですけどね(笑い)。

 そこで同監督は製作方針を変更。録画スイッチを入れたままカメラだけ放置することを企てます。すると、ジンミちゃんのお父さんもお母さんも役者さんだということが発覚。お父さんが「豆乳は体にいいんだぞ」と台本を読んでいる姿が映し出されていました。実際に“裏の監督”もいて「ここで笑いましょう」などと指示している。家の中も不自然。ジンミちゃんは高級マンションなんですが、生活感がないんですよ。つまりセットなんですね。

 印象的だったのは、最後にマンスキー監督がジンミちゃんにインタビューするシーンです。本当は生活が苦しいのに、なぜこんなウソをつかなければならないのか、8歳の女の子は感情のコントロールができず、号泣してしまいます。それでも、お父さんから「楽しいことを思い出してごらん?」と促されると、口をついて出たセリフは「将軍さまはすごい!」。混乱していてもこのセリフが飛び出たことに、僕は何ともやりきれない思いになりましたね。

 マンスキー監督は、このフィルムを北朝鮮国外に持ち出すことに成功し、西側諸国20都市で上映されました。ドキュメンタリーで始めたら、フェイクだったという真実。北朝鮮という国を知るにはオススメの一本になっています。

 ☆ありむら・こん 1976年7月2日生まれ。マレーシア出身。玉川大学文学部芸術学科卒業。ローカル局のラジオDJからキャリアをスタートさせ、その後映画コメンテーターとしてテレビ番組やイベントに引っ張りだこに。最新作からB級映画まで年間500本の作品を鑑賞。ユーチューブチャンネル「有村昆のシネマラボ」で紹介している。