【楊枝秀基のワッショイ!スポーツ見聞録】「ファンの皆さんに夢を。喜んでもらうのが俺らの仕事」

 阪神・矢野燿大監督の口からこんな言葉を幾度となく聞いてきた。

 だが、今季はなかなかファンを喜ばせるにいたらない苦戦が続いている。

 24日からの楽天3連戦では、初戦で田中将大から白星をもぎ取ったものの、終わってみれば負け越し。最下位からの浮上の気配も見えてこなかった。

 それはそれで事実なのだが…。今回は5月26日という日付に着目して、過去の夢に浸ってみようと思う。

 1998年の5月26日、阪神は倉敷マスカットスタジアムで中日と対戦していた。スタメンマスクは現役時代の矢野。先発マウンドには当時の主力・川尻哲郎が上がっていた。

 結果は恐竜打線を相手にノーヒットノーランを達成。2回に2点の援護を得た川尻は、110球でプロ通算66人目、77度目の快挙を成し遂げた。マウンド上で川尻、矢野のバッテリーが抱き合った場面は多くの虎党の記憶に残っているはずだ。

 当時は暗黒時代の後期。虎党も苦い思いを重ねてきた。そんな中でいい夢を見させてもらった瞬間だった。最下位争いのただ中で、吉田義男監督が「今年初めて春が来た感じですわ」とコメントしたのもうなずける。

 そこから24年の時間が経過した。中日の2番手捕手から阪神への移籍で正捕手を奪取。引退後は指揮官にまで上り詰めた矢野監督が現在の猛虎を率いている。

 ノーノーを達成した川尻氏は東京・新橋で虎戦士PRESENTS「TIGER STADIUM」という居酒屋を営んでいる。当時、一緒に夢を共有したファンへ「恩返ししたい気持ちで始めました」という思いで、実際に店に立っている。

 27日から阪神はロッテとの3連戦に臨む。相手先発は勢いに乗る「完全男」の佐々木朗希だ。原稿にノーヒットノーラン、完全試合という字面が並ぶと正夢の危険性も感じてしまうが、そんな夢なら砕かなくては虎党が泣く。

 試合後、意気込みを問われた矢野監督は「いい投手って分かってるし、接戦になることは分かっている。まだ負けついてないので、最初に負けをつけられるように」と話した。

 完全男を攻略し今季初黒星を。虎党にいい夢を届けてもらいたいところだ。

☆ようじ・ひでき 1973年生まれ。神戸市出身。関西学院大卒。98年から「デイリースポーツ」で巨人、ヤクルト、西武、近鉄、阪神、オリックスと番記者を歴任。2013年からフリー。著書は「阪神タイガースのすべらない話」(フォレスト出版)。21年4月にユーチューブ「楊枝秀基のYO―チャンネル!」を開設。