フランスで開催中のカンヌ映画祭で26日(日本時間27日)コンペティション部門に出品された、是枝裕和監督(59)が手掛けた初の韓国映画「ベイビー・ブローカー」が公式上映された。

是枝監督は上映後、日本のメディアの取材に応じた。その中で、韓国の俳優と日本の俳優とを比較する質問に対し、俳優と監督に関する持論を展開した。

是枝監督は、18年に最高賞パルムドールを受賞した「万引き家族」以降、19年に初めてフランスとの国際共同製作で映画「真実」を作り上げた。そして今回、韓国の映画社ジップが製作し、同国映画界の最大手CJエンターテインメントが配給する「ベイビー・ブローカー」を製作と2作連続、海外で映画を製作した。そのことを受けて、日本との違いについて質問が出た。同監督は「この前もフランスで撮っていますけど、フランス映画を撮った、韓国映画を撮った、日本映画を撮ったという意識ではないので。好きな役者さんと、その国で映画を撮っているという感覚です」と率直な思いを語った。

「ベイビー・ブローカー」には、主演のソン・ガンホ(55)を筆頭にカン・ドンウォン(41)、IUとして絶大な人気を誇るシンガー・ソングライターのイ・ジウン(29)、人気ドラマ「梨泰院クラス」にも出演したイ・ジュヨン(30)、是枝監督の09年「空気人形」に出演して以来の再タッグとなったぺ・ドゥナ(42)が出演した。同監督は「今回は本当に、ちょっと信じられないくらい、トップの役者が集まってくれたので、それは僕にとっても、けうな経験でしたけども、それが作品の大きな力になっているんじゃないかと思います」と続けた。

質疑応答の中で、一部のメディアから「フランス人に『是枝監督はなぜ最近、日本で映画を撮らないんだ?』と聞かれ、多分、日本の俳優より韓国の俳優が良いと言ってしまった」と投げかけがあった。それに対し、是枝監督は「もちろん、韓国で今回、ご一緒した方は本当に素晴らしいけれど、日本の役者さんも、トップの方たちは決して負けていない。安藤サクラさんとか役所広司さんとか、やっぱり一緒にやって、すごく学ぶことも多いし」と、自らが手掛けた「万引き家族」に出演した安藤と、17年「三度目の殺人」に出演した役所の名前を挙げた。

同じ取材者から「韓国では、トップからボトムまでかなりレベルが高い、と私自身は思っている」と、さらに投げかけがあった。是枝監督は「(韓国は)演技の訓練を積んでいる。その素養があるというのは大きな違いだと思う…それはフランスも同じだと思います」と海外の俳優の方が、より訓練されていると指摘した。

一方で「ただ、僕みたいに、あまり演技経験がない子どもとか役者ではない人をキャスティングするということの面白さとか…難しさもありますけど、面白さで映画を作ったりすると、必ずしも訓練を積んでいるから、面白いわけではない。その辺は、日本で映画を作る難しさでもあり、面白さではあると思う」とも語った。その上で「ただ、日本の中で訓練を積んでいないのは役者だけではなくて、監督もそうだから。僕も、やっぱり専門的な演出を学んで映画を撮っているわけではないので。それも、また海外と比べると、すごく少数派なんですよね。やっぱり海外の監督たちは、きちんと技術を学んで監督になっているから」と、日本は俳優だけでなく、監督も演出をはじめとした製作における専門的な技術の訓練が足りない面があると指摘。「そこも、やっぱり自分では考えなければいけない。役者の技量の問題ではなくて、監督がきちんと役者と一緒に映画を作れる、コミュニケーション出来る言葉だったり技術だったりを、僕自身もそうですけど、身に付ける必要があるなと改めて思いますけど」と持論を展開した。

その上で「決して、もう日本で撮らないというわけではなくて、日本での企画も、きちんと動かしていますし」と言及。今年には、Netflix初のシリーズ「舞妓さんちのまかないさん」の配信も決定しており「海外で撮ったことを、僕の演出だけではなくて、その経験を、どう日本の中での映画作りというのにフィードバックして、何を変えていくべきなのか、何はそのままで良いのかとか、いろいろなことを持ち帰りたいと思っているので」と語った。