大相撲の元関脇安美錦の安治川親方(43)が29日に東京・両国国技館で引退相撲を行った。

 断髪式には弟弟子の横綱照ノ富士(伊勢ヶ浜)や落語家の笑福亭鶴瓶、ロックバンド「ザ・クロマニヨンズ」の甲本ヒロトら約350人が参加。浅香山親方(元大関魁皇)にはさみを入れられ、感情がこみ上げる場面もあり「(涙は)出ないのかなと思っていたが、意外にグッとくるものがあった」と感想を語った。

 関取在位117場所は元大関魁皇と並ぶ歴代1位タイ。2019年名古屋場所を最後に引退し、当初は20年10月に引退相撲を予定しながらもコロナ禍で2度の延期となった。ようやく開催が実現し「正直、疲れました」と冗談交じりに切り出すと「疲れましたが、やめてからの3年間は誰も経験したことのないことを経験できた。いろんな学び、出会いがあったのですごく特別な時間になった」と充実の表情だった。

 断髪式前は最後の大銀杏姿で長男の丈太郎君(4)と土俵入りを披露した。「一度、息子と土俵に上がりたいというのがあった。気恥ずかしような、うれしいようないろんな感情があふれてきてやってよかったなと思った」。愛息が「もう一回やりたい」と〝おかわり〟を希望するなど、貴重な時間となったようだ。

 また、2人の娘は手紙を用意。長女の友緑ちゃん(8)は「新しいお部屋とお家ができるのを楽しみにしています。私はお父さまを見習って一生懸命取り組めることを見つけられるように頑張ります」と丁寧な言葉で思いを伝え、次女の公緑ちゃん(7)は「お父さまの耳掃除が大好きです。これからも耳掃除をしてください」と家族愛が垣間見えるエピソードを交えて会場の笑いを誘った。安治川親方は「よく私のいないところで練習したなと。正直、ビックリしたし緊張しないでよくしゃべれたなと」と目を細めた。

 晴れ舞台で大きな拍手を浴びたこの日の主役は「自分も勉強しながら指導できるように力士たちと一緒に成長していきたい。今までの経験に学びを付け加えて指導していきたい」と気を引き締めた。