天然痘に似た動物由来のウイルス感染症「サル痘」の患者が増加している。従来継続的に発生してきたアフリカ諸国以外の欧米を中心とした23か国で今月、257人の患者が確認されたと世界保健機関(WHO)が29日発表した。WHOも「異例」と警戒する事態。専門家はこれまでのサル痘には見られない感染の広がり方を疑問視し、バイオテロリズムやウイルスの“変異”の可能性も指摘する。日本を含むアジアでは今のところ確認されていないが、「時間の問題」と警鐘を鳴らした上で、政府の対応を懸念した。

サル痘は根絶した天然痘に似た感染症で、アフリカのリスの仲間が持つサル痘ウイルスが原因。サルなども感染し、アフリカでは散発的に人の間でも発生してきた。感染すると10日ほどの潜伏期間を経て、発熱や頭痛、リンパ節の腫れ、筋肉痛、体や顔に発疹などの症状が出る。おおむね軽症で推移するが、子供や妊婦、免疫が低下している人が感染すると重症化する。致死率は最大で10%程度とされるが、先進国では低く、今回も死亡報告はない。

 国内では感染症法で4類に指定されている。飛沫感染も起きるが、多くは体液や発疹への接触によるもので、人から人への感染はまれとされる。今回の患者は若い男性が多く、性交渉による感染が疑われている。患者の治療は欧州では抗ウイルス薬が承認されているが、日本で実用化されたものはなく、対症療法が中心となる。
 そんなサル痘について、医学博士で防災・危機管理アドバイザーの古本尚樹氏は「今まではアフリカ中心で流行することが多かったが、コロナのようにパンデミックの様相を呈しているのがちょっと謎だし、怖い」と話す。

 天然痘は古くからバイオテロリズムへの使用が懸念されてきた。天然痘によく似たサル痘だけに「偶然かもしれませんが、今はロシアとウクライナの問題や北朝鮮が挑発行為をしたりとリスキーな世界情勢になっている。“コロナはバイオテロリズムの一つ”との指摘もありましたが、今度はサル痘が出てきて、偶然に思えないような部分もある。今までの歴史で、感染症が終わって、また別の感染症が広がるということがなかった。自然発生的な可能性が強いでしょうが、人為的な可能性も考えられなくはない」

 折しも、日本では6月1日から1日当たりの入国者の上限が2万人に引き上げられ、10日から外国人観光客の入国を再開する。古本氏は「動物に起因する話なのに、医療がある程度進んだ欧米で事例が出るのか。しかも、少しずつ増えてきている。動物に起因するところから次の段階、つまり低いと言われている人から人への感染に入ってきているのではないか」と、従来のサル痘とは違う“変異”の段階に入っている可能性を危惧。今のところ、アジアでは患者は確認されていないが「日本に入ってくるのは時間の問題」と指摘した。

 サル痘が日本上陸となれば、どうなるのか。天然痘ワクチンに予防効果があり、接種歴のある人は免疫があるとみられているが、1970年代後半以降、定期ワクチン接種は行われていない。古本氏は「医療機関が危ない。コロナの初期と同じく医療関係者の間でクラスター化的に発生すると危ない」とみる。

 さらに、もっと心配な点があるという。

「最初の感染者が出た時に、新型コロナの時のように大騒ぎになるのではないか。水際対策をやるとかいろんなことが始まると思うが、どうやって国民を説得させるのだろうか。やっとコロナが自然に減ってきたのに、今度はサル痘で制限をかけてワクチンをするとなるのか。また同じメンバーで分科会をつくって、何を言うのか。これまでと同じことを言っても、反発を食らうだけ。政府の対応に危惧するところは多いですね」

 コロナ対策では迷走を繰り返し、危機管理能力の欠如をさらけ出しただけに、サル痘で同じ轍を踏まないことを祈りたい。