歌舞伎俳優松本白鸚(79)が30日、都内で、第47回菊田一夫演劇賞授賞式に出席した。

69年の日本初演以来、50年以上にわたり単独主演を務めたミュージカル「ラ・マンチャの男」での功績が評価され、特別賞を受賞した。

壇上の白鸚はトロフィーを手に「一番うれしい賞です。一番懐かしい名前が刻まれた賞でございます」とあいさつ。同作は当時26歳で初演され、「あっという間に50年」と感慨深げに振り返った。また「初演以来50年以上、私のそばにいて、ブロードウェーではドレッサーの役割をやってくれた家内の紀子にお礼を言いたいと思います。ありがとう」と妻への感謝も語った。

今年2月、白鸚による最後の「ラ・マンチャ-」が上演され、1314回同作の舞台に立った。やめようと思ったことは「1度もございません。3歳で初舞台を踏んで、それ以来1度もございません。病気の時もケガの時も務めて参りました」。また「今日は倒れるんじゃないか」と覚悟したこともあったが、「この痛みや苦しみは、(演じる)セルバンテスが尋問を受けて地下牢に放り込まれる苦しみだなと思った。僕が妻に『今日は最低の出来だっただろう?』と聞いたら、『最高の出来だった』と。役になりきること、役者にはそれだけだなと思いました」と実感を込めた。

歌舞伎界からミュージカル界に飛び込んだ先駆者でもあり、苦労については「大役が降ってきたら、これは試練だと思って全部受けた。苦しい時に逃げないで、もっと苦しいことに足を突っ込めば苦しいことが薄まるのでは」と、あえて厳しい環境に身を置いてきたという。やがて「これが働くということ、仕事なのかなと思った」とその境地を語った。

最後は改めて「ラ・マンチャ-」への思いを口にし、「最後まであるべき姿のために戦う心を、いつも失わないで欲しい。そういう方のためにやってきたと思いますので」と締めくくった。