「世紀の頂上決戦」にまさかの〝横やり〟だ。キック界の神童こと那須川天心(23)とK―1のエース・武尊(30)が対戦する立ち技メガイベント「THE MATCH 2022」(19日、東京ドーム)を地上波で生中継する予定だったフジテレビが、31日に一転して放送を見送ると発表した。格闘技界を揺るがす青天のへきれきとも言える事態に、伏線はあったのか? 今後はどうなっていくのか? 舞台裏に迫った――。

 フジテレビが「THE MATCH」の放送を見送ると発表したのが31日の正午過ぎだ。公式ホームぺージ上で「主催者側との契約に至らず、フジテレビで放送しないことが決まりましたので、ここにお知らせいたします」とした。

 これを受けて、大会実行委員を務める格闘技イベント「RIZIN」の榊原信行・ドリームファクトリーワールドワイド代表は、K―1の中村拓己プロデューサー、RISEの伊藤隆代表とともに緊急会見。「何が最終的な原因になったのか明確なものはない」と、説明がないまま通達されたことに無念の表情を浮かべた。

 週刊ポスト誌で、自身と反社との関連を示唆する音声が流出したと報じられたことが影響した可能性はあるとしつつも「その記事が出る前後から、身辺調査を含め反社チェックが関係各位に行われました。反社ではもちろんないし交際もない」と力説した。

 フジテレビが株主総会と社長交代を控える繊細なタイミングだけに「いろいろな意見がある中で『やっぱり放送が難しい』というのがあったのでは」と推測したが「はっきり言っておきますけど、経済的な条件でフジテレビさんが折り合わなかったんじゃないです」と放映権料は無関係であることを強調した。

 一方で水面下ではすでに昨年の段階で、フジテレビがRIZINの中継から撤退するのでは?という臆測があった。フジテレビと言えば、かつて絶大な人気を誇った旧K―1やPRIDEを放送し、格闘技界と蜜月の関係にあったが、現在はコロナ禍の影響で経営状況の悪化が指摘される。そうしたフジ側が、視聴率では大きなうまみのない格闘技と距離を置こうとしていた可能性もあるだろう。

 これを受けて、格闘技界からは怒りと落胆の声が上がった。事情に詳しい関係者は「ファンと格闘技界の〝地上波離れ〟が加速するでしょうね。今回の件は誰も線引きをできない。反社と認定されたわけでないのに、週刊誌に書かれた、ネットで騒がれたというだけで、腫れものにさわるような扱いになる」と指摘。

 フジテレビの撤退により、同大会は映像配信サービス「ABEMA」によるPPV方式でのみ視聴可能となる。「今後はスポーツは配信になる。実際に配信の方が収益もいいんですよ。例えば朝倉未来と萩原京平がやった(昨年10月の)『RIZIN LANDMARK vol.1』で、U―NEXTで数万件の視聴数があったとされる。昔の格闘技は数億円の放映権料があったけど、今は数千万ですから」と明かした。

 別の関係者も「地上波に出るというのは、認知度、プロモーションの部分が大きかった。これまでは地上波に出るという夢があったけど、今はその目標がない。(PPV中継で)地上波に出ないフロイド・メイウェザーが何千万人のフォロワーがいる時代だから」とテレビから格闘技は離れていくと断言する。

 その上で「今後は、格闘界はみんな配信に走るでしょう。配信でいかに稼ぐかになる。もしフジテレビが地上波で放送していたら(ABEMAの)PPVの視聴数は10万件くらいだったでしょう。でもこれで20~30万件はいくかも。30万件だと(売り上げは約)15億円ですよ。今のフジテレビが払えるわけがない」と予想した。

 選手の立場から影響を語ったのは〝バカサバイバー〟こと青木真也だ。「ぶっちゃけ、もともとフジテレビで放送する予定だったのは武尊と天心だけだったから、他の選手にとってはどうでもいいんだよね」とした上で「地上波で戦うという大義名分を失った天心と武尊に影響が出ないかっていう心配は多少はあるけど、実際あの2人ならそんなこと関係ないだろ」とバッサリ切り捨てる。

 一方で格闘技界の今後について「規模は当然縮小するでしょう。テレビがなくなればスポンサーも減ることになるわけだし。PPVは大きいけど、そこでしか収入を得られなくなっていくことになるから」とし、最後は「K―1とRISEは〝もらい事故〟のようなもんだ」と声をしゃがれさせた。

 大会は予定通り行われるものの、ゴングまで3週間を切ったメガイベントにまさかの暗雲が垂れ込めている。