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故・中上健次が1986年に発表した小説『十九歳のジェイコブ』が、新国立劇場にて、初めて舞台化される。演出を務めるのは1946年生まれの中上と同い年である、維新派の松本雄吉。脚本を手がけるサンプルの松井周は40代、音楽監修の菊地成孔は50代、石田卓也、松下洸平、横田美紀、奥村佳恵ら主要キャストは20代と幅広い世代が結集し、中上文学が放つ濃厚な世界観を新しい感覚で紡ぎ上げる。6月11日の初日に向け、最終段階に入った稽古場に足を運んだ。
ジャズ喫茶に入り浸り、セックスとドラッグに身を委ねる19歳の青年・ジェイコブ(石田)。ブルジョアの息子のユキ(松下)らと退廃的な時を過ごしているが、自らの出自の秘密を握る戸籍上の伯父の元を訪ねたことをきっかけに、屈折した思いや、虚無的な態度の裏に隠した怒りが、爆発寸前にまで高まっていく。
舞台上には、横幅5メールほどの長テーブルのような台がいくつも置かれているが、いずれの台も両端の高さがバラバラで斜めに傾いている。演出の松本は、俳優陣に対し、この台は“いかだ”のイメージであり、ジェイコブらが都市において漂流し、路頭に迷っていることを表していると説明。劇中、この台は時にジェイコブらがクスリを打つジャズ喫茶のテーブルとなり、体を重ねるベッドとなり、繋ぎ合わされて伯父の家へと続く道として機能する。
石田が演じるジェイコブは、決して口数の多いキャラクターではないが、石田はジェイコブが持つどこか周りを惹きつける独特の存在感、心の内に秘められた葛藤や苦悩を見事に体現している。ドラッグで“トリップした”ような姿を見せたかと思えば、ベッドの上では横田、奥村と共に巨大な白いシーツにくるまり、軽快でどこか滑稽で、それでいて強烈なエロスに満ちたシーンを作り上げる。そして終盤、衝動に駆られて鉄バールを手にするシーンでは、全ての怒りをその手に集めたかのように舞台上で凄まじい熱を発し、強い存在感を放つ石田の姿があった。
菊地成孔が選曲したジャズは、若者たちの心の叫びや揺らぎ、葛藤をそのまま表現するかのように、激しく、不規則に、突風のように楽器の音が響かせて、暴力的にシーンを彩る。物語は、その音楽に挑発されるかのように、黒い疾走感に包まれていく。
没後22年、いまの時代に中上健次は何を問いかけるのか? 完成を楽しみに待ちたい。公演は6月11日(水)から6月29日(日)まで東京・新国立劇場 小劇場にて。チケット発売中。
取材・文:黒豆直樹
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