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「愛するから血を流す」家族を描いた傑作に田中圭が挑む
2015年09月08日 10時16分 [演劇]
田中圭
田中圭 撮影:河上良

人気俳優の田中圭が、アメリカを代表する劇作家ユージン・オニールの自伝劇『夜への長い旅路』に挑む。オニールが自身の崩壊寸前の家族を赤裸々に描き、自分の死後25年は発表することを禁じていたという衝撃作について、話を聞いた。

「夜への長い旅路」 チケット情報

1912年のアメリカが舞台。モルヒネ中毒で幻覚を起こす母親(麻実れい)をきっかけに、落ちぶれた俳優の父(益岡徹)、田中が扮する長男、次男(満島真之介)の4人が、それぞれの思いを吐露し、家族の内幕が明かされていく。「母親は薬物中毒で、弟は結核。僕が演じるジェイミーはアル中なんですが、それぞれが抱えている問題を意識し過ぎずにお芝居をしている。演出家の熊林弘高さんが、そういう見方だけをされるのはもったいないと。ふとした瞬間にアル中であるということが垣間見えるバランスの取れた演技をしたいです」

いつも役を「演じる」のではなく、「生きる」ようにしているという。「でも、今回は難しくてジェイミーという人が掴めそうで掴めない(笑)。ただ、4人の中で唯一真実を見ているのは彼だけ。ほかの3人は、愛している家族を守るためにごまかしたり、逃げたり、嘘をつく。彼が真実を語っているというところは伝えたい」

さらに、オニール自身でもある満島真之介演じる弟のエドマンドとの応酬は見どころだ。両親の愛や、才能に対する嫉妬を弟に直球でぶつけていく。「嫉妬は激しいけれど、弟をとても愛している。愛すれば愛するほど自分が惨めになっていくんです。人を愛するということは自分自身も血を流している。愛しているからこそ、身を引いたり、痛みを伴ったりするんですよね」

ノーベル文学賞を受賞したオニールが、今作で4度目のピュリツアー賞を獲得した傑作。満島は「神秘的な美しさがあり作品を悲劇だとは捉えていない」と語っていたが、田中も同感だ。「簡単に言えば家族喧嘩の話。でも根本には愛がある。喧嘩ばかりでそこまで文句を言うなら、別々に暮らせばいい。それでも一緒にいる理由、家族の持つ意味は何だろうと考えます。オニールもこの戯曲を書いたからこそ救われた。それがなければ救われていなかったと思う。だから悲劇とは思えないんです」

かつて同作が上演された際は、笑いも起きていた。「シリアスなものをシリアスだけで演じてもつまらない。ちょっとぬける場面もあり、見方を変えれば笑えるようにもしたい」と意気込む。「僕ら4人が家族となって生きた後、改めてどんな感情が生まれるのか。何かを掴んで、観客に田中の演技がすごく変わったなと思ってもらいたいですね」

公演は、9月7日(月)から23日(水・祝)まで東京・シアタートラム、9月26日(土)から29日(火)まで大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演。チケットは発売中。

取材・文:米満ゆうこ

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