「カメラを止めるな!」の、上田慎一郎監督(35)の新作「スペシャルアクターズ」が公開された。公開後だからこそ出来る“禁断のネタバレインタビュー”2回目のテーマは「無名俳優で148館公開…上田慎一郎の“ばくち”」。【聞き手・構成=村上幸将】
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上田監督は、「カメ止め」では、山奥の廃虚でゾンビ映画を撮影する撮影隊と並行し、メンバーの日暮一家にスポットを当てた。「カメ止め」助監督の中泉裕矢氏とスチール担当だった浅沼直也氏と、共同監督と脚本を務め、8月に公開した「イソップの思うツボ」には、仲のいい家族、大人気のタレント家族、復しゅう代行屋を営む父娘と、3家族を登場させた。そして「スペアク」では兄弟、姉妹を軸に家族が登場する。3作を結ぶ共通項は“家族”ではないだろうか?
上田監督 意識して、家族を描こうとは思っていないです。自分は、チームを作って物作りをするタイプで、映画を作る前にチームを作るというスタイルで「カメ止め」と「スペアク」を作った。チームで何か物事を作る、挑むのが好きなんです。
-「カメ止め」の製作準備中の2017年3月に「スペアク」でも監督補を務めた妻のふくだみゆき氏が、第1子の長男を出産したことも大きかったのでは
上田監督 家族って、やっぱり最小の単位のチームであると思うんですよ。しかも、なかなか切っても切れないチームです。1つ、言えることとすると、ドラマや映画で家族を描く場合って、本筋と家族愛は別ルートで走ったり、サクセスものとかでも仕事と家族は別に動きますけど、「カメ止め」「イソップ」「スペアク」は家族が全員、同じことをするというのが、特徴かも知れませんね。それは、僕とふくだが一緒にやっていることですし。ふくだのことは、妻であり仲間であり…家族と言うより、チームだと思っています。
俳優14人座談会の第1回でも紹介したが「スペアク」はスタート段階から紆余(うよ)曲折があった。上田監督は当初、超能力者を描いた「マジカル・スパイ」を考えていたが、脚本が書けずに企画をリセット。改めてキャストと企画会議を行いアイデアを吸い上げた。「マジカル・スパイ」は、なぜNGだったのか?
上田監督 「マジカル・スパイ」は、ポンコツ超能力者たちがスパイ集団となって、日本の危機を救うというスケールが、このメンバーと予算では茶番になってしまうと考えたからです。ハリウッド映画くらいの予算があれば、その世界観に説得力を持たせられますけど、半端な予算ではコントみたいになってしまいますよね。どうしても映画になるイメージが湧きませんでした。あとは、超能力という特殊な能力を持っていると、映画を見る生身のお客さんとの間に、やはり距離が出来てしまうと思ったんです。お客さんと同じ普通の人間が、力を合わせて頑張るから、共感が生まれるんだと思ったので、登場人物たちが特殊能力を使うことが出来るというのは、ちょっと自分の映画に合わないかなと思ったんです。
-18人の俳優との企画会議をへて、どう変えた?
上田監督 超能力を使える、ふりをしている人にしようというのが1つ、ありましたね。主人公の和人も、ムスビルの教祖の多磨瑠も、超能力を使えるフリをする人という設定になっているんですけど、それは「マジカル・スパイ」があってこそ生まれたものですね。
-主人公の大野和人を演じた、大澤数人(35)への思い入れは強い
上田監督 やっぱり、数人が主役ですので、彼の存在が大きいですよね。こんな人が、商業映画の主人公になり得るのか? という人を主人公にしたかった。ほとんど、僕のトライですよね。
-大澤には座談会で「10年間で3回しか芝居していないって本当?」と聞いたら「はい…そうですね、それだけです」と認めた。俳優をしていることは、母親と友だちだけに伝えたという話だったが、公開前に「友だち1人だけ」と発覚したことも明かした
上田監督 (キャストは)変な人を集めてはいるんですけど、メンバーの中でも、一段と変ですよね。同い年なんですけど、しゃべるペースも、声量も、立ち居振る舞いも、浮世離れしているというか…存在は大きかったですね。何て言うんですかね。「カメ止め」主演の濱津隆之さんもそうなんですけど、器用じゃない…不器用な人を、メインに据えたいんでしょうね。でも、数人は濱津さんより、よっぽど不器用でしょうね。緊張すると気絶するという設定も、ともすればコントみたいに見えかねないですけど、彼ならリアリティーをもって見られるのではないかと。彼が主人公を演じたということは、この映画にとって大きいです。
-和人は緊張するとボールを手で握るが…
上田監督 役どころとして演じていますけど、指示していないところでも、もんでいましたね(笑い)
-大澤は、監督が自分だけ演出が厳しかったのは、一定の緊張を持続させようという親心だと語った
上田監督 和人は常に緊張している場面ばかりなので、リラックスされると、緊張しているフリをする芝居の技術が必要になるんですけど…数人には、その技術はないと思ったので、実際に緊張しておいてもらうしかなかったです。
-なぜ大澤を主人公に選んだ?
上田監督 今回はオーディションで選んだ15人のキャストを、ワークショップをへて誰を主人公にするか、追って決めましたが、数人と(和人の弟・宏樹役の河野)宏紀は多分、2トップになるやろうな、とは思っていました。やっぱり、次にどういう芝居と、表情をするのかが、最も読めないのが2人でした。松本人志さんが11年の映画「さや侍」で素人のおっちゃん(野見隆明)を起用したのがありましたが、格好いいわけでもなく、演技が達者なわけでもない彼(大澤)が、主人公の長編映画を、全国148館の映画館で公開されるということが、ある意味、1つの大きなチャレンジですね。よく考えてみれば、ヒロインで最もメインポジションにいる津上理奈もOLで、演技未経験ですからね。数人と宏紀と理奈という、最も不器用でプロの役者とかけ離れたところにいる人が、メインを張っているという、よく考えると、とんでもない“ばくち”ですね(笑い)
-このインタビューは公開後に掲載するので、1度見た人が、また見たくなる“禁断のネタバレ”をお願いします
上田監督 やっぱり難しかったのが、1回目に見た時と、2回目に見た時と…って、どのあたりのネタバレまでOKなんですかね(笑い)う~ん…「カメ止め」も一緒だと思うんですけど(物語の)2周目は、前半と中盤が全く違う見え方がするんです。さらに、セリフとかも1周目と2周目では、聞こえ方が変わってくるところが、いっぱいあります。あとは…例えば
<1>「スペシャルアクターズ」の事務所の、ポスターに注目して下さい。
-他には?
上田監督 具体的に言った方がいいですね。
<2>宏樹の前半のセリフ
にも注目です。あと…これは絶対に気付けないだろうから、言っておくけれども
<3>“あの2人”も「スペシャルアクターズ」のけいこ場に実はいた。
「スペシャルアクターズ」のけいこ場で作戦会議をしている時なんですが、これは、目を凝らさないと分からない。
上田監督は、18日に東京・新宿ピカデリーで行われた初日舞台あいさつの壇上で「映画もメンバーも無名で(観客から)『カメ止めの…』と言われるのが悔しくて…。胸を張って『スペアク』のメンバーと言えるようにしたい」と誓った。そして公開後は「カメ止め」の時と同じように、SNSで拡散を続け、舞台あいさつに連日、立つなど走り続けている。
ただ、24日にはツイッターに、公開後の厳しい現実と立ち向かう覚悟の思いをつづった。
「『10/31(木)上映終了予定』が点灯した劇場が幾つかあります。ノンスターで全国148館発進。まだまだ認知が行き届いておらず1館当たりの動員は苦戦してます。でも観てくれた方々の声が、熱が、どんどん拡がりつつあります。ここらからやで。いけ、スペシャルアクターズ!」
そして、こう続けた。
「ご存じの方も多いと思いますが、僕の特技は奇跡を起こすことです。やるぞ」(コメントは原文のまま)
「僕は映画を見て、救われてきた人間」と語る、上田慎一郎の戦いは続く…。