ロシアによる非人道的な侵攻を受けているウクライナの“女スナイパー”たちが、にわかに注目を集めている。本紙でも既報したように、圧倒的軍事力を誇るロシアに対し、首都キーウ(キエフ)を防衛するなど激しい抵抗を見せているウクライナの陰の立役者として英雄視されているのだ。日本人には漫画「ゴルゴ13」や映画の中の存在でしかなかったスナイパーのすごさとはいったい――。

 国家防衛戦が続くウクライナでは14日、巡航ミサイルでロシア黒海艦隊旗艦の巡洋艦モスクワを攻撃したと発表。タス通信などによると、ロシア国防省は同日、同艦が沈没したと明らかにした。ただ、同艦については、艦上の火災で弾薬が爆発し、重大な損傷を被ったとしている。攻撃が原因なら、ウクライナの“戦果”となる。

 他国の派兵支援を受けずに奮闘するウクライナ軍にあって、注目されているのが腕利きの“女スナイパー”たちだ。旧KGBなどへの独自のネットワークでロシア事情に詳しい元警視庁公安部出身で、日本安全保障・危機管理学会インテリジェンス部会長の北芝健氏はこう話す。

「スナイパーは軍隊の中のエリート。努力でなれるものではなく、1ミリのブレも押さえるために心臓の拍動を抑えるといった天性の才能が必要で、実技テストで直ちに適性が分かるといわれている。後方から数百メートル以上先の標的を狙うスナイパーは類いまれな集中力を求められるが、同時に標的の速度や風、地球の自転で生じるコリオリ力も計算に入れなければならない。その点でマルチタスク(複数の作業を同時並行で行うこと)を得意とする女性の方がスナイパーには向いているといわれている」

「ゴルゴ13」や多くの映画では男スナイパーが主人公のため、女スナイパーの存在は意外かもしれないが、最前線と違ってさほどフィジカルな能力を求められないこともあって、現実には腕利きの女スナイパーが数多く存在しているのだ。

 本紙では先日、現代版“死の淑女”と呼ばれるウクライナの女スナイパー、コードネーム「ウゴルオク(英語名チャコール=炭色の意味)」の復帰を詳報したが、同国には他にも多くの女スナイパーの存在することが明らかになっている。

 例えばオレナ・ビロゼルスカは元ジャーナリストだったが、2014年のクリミア半島侵攻後、志願兵となりスナイパー訓練を受けた。17年に東部ドンバス地域でロシア兵10人を射殺するなどした実力者。3度も勲章をもらい、「英雄」と称され、21年に引退したが、ロシアの侵攻を受けて2月に現役復帰したとされる。

 ウクライナ国防省はツイッターで「北欧の国からウクライナを守るために来た『サンドラ』です。すでに戦闘任務に就いていますが、詳細は言えません」として、顔をアップしている。柔和な顔ながら、スゴ腕ということだろう。また、最強アゾフ連隊でコードネーム「スズメバチ」を持つ女スナイパーもいる。

 一方、ロシア側にも腕利きの女スナイパーは存在する。

「バギラ(黒ヒョウ)」のコードネームを持つイリーナ・スタリコワは、セルビア出身の元ハンドボール選手。元修道女で「マザー・ゼニア」とも名乗っていた。14年には東部ドネツクで40人以上のウクライナ兵や民間人を狙撃で殺害。3月末に捕まり、現在は捕虜となっている。

「戦争においてスナイパーは重要な役割を担っている。相手の将官を狙撃によって殺害することで士気を下げたり、指揮系統に混乱を生じさせたり、自軍を有利にする効果がある。今回のウクライナ侵攻でロシアの将官は何人も狙撃で殺害されたことで、もともと士気が低いといわれた若者中心の部隊が、ますます機能不全に陥った。祖国のウクライナを守りたい母性本能にあふれた腕利き女スナイパーの存在は大きかった」(北芝氏)

 ちなみに狙撃には世界最長記録があり、その距離なんと3570メートル。東京の新宿―渋谷駅間が約3・6キロなので、単純な距離だけならアルタ前からハチ公前を歩く人を射殺できる計算だ。