北欧フィンランド発のホラー。少女の抑圧された感情が「それ」を育ててしまう。単なるホラーと笑っていられぬ事態が次々に起こり、すべてが現実の生活とつながっているから怖い。心の闇に焦点を当て、人間の持っている根深いものを描く。

フィンランドの一見、理想的な4人家族。母親は「幸せな家族の日常」の動画をSNSで発信するのが日課だ。完璧で美しい母を喜ばせようと、本心を抑え、体操の大会優勝を目指す12歳の少女ティンヤ。ある夜、森で奇妙な卵を見つけ、家族に秘密にしながら自分の部屋のベッドで温めると、卵は次第に大きくなる。やがて「それ」が孵化(ふか)すると…。

不気味な「それ」は北欧の森の美しい風景、花柄の明るい部屋とはあまりにも対照的だ。少女の心の揺れとともに形を変え、進化し、幸せそうな一家の「仮面」をはぎ取っていく。なぜか、鋭利な刃物でえぐられるような感覚を覚えた。

国連報告書の「世界幸福度ランキング(21年版)」では1位を獲得しているフィンランドを舞台にした今作は、単なるホラーではなく、本当の幸せって? を問いかけている。

【松浦隆司】(このコラムの更新は毎週日曜日です)