幕開けは郊外の邸宅だ。朝寝坊の妻のベッドサイドに夫がコーヒーを運ぶ。ニューヨークで商社を経営する夫の羽振りはいい。乗馬が得意な妻は、裕福な仲間への個人レッスンで昼間の時間をつぶしている。2人の子どもに恵まれ、絵に描いたような理想の家族だ。

が、英国生まれの夫の希望で、好景気のロンドンに家族連れで拠点を移したことをきっかけに、その虚飾はあっけなくはがれる。

周囲の英国ビジネスマンの堅実ぶりが、目先の大金を追って利益を先食いする夫の「米国流」をあぶり出す構図で、見えとはったりが悪目立ちし、自転車操業の実態が露見していく。二枚目ジュード・ロウが、この夫役でかなりかっこ悪いところまで見せ、過去作では見たことがないくらい演技の振れ幅が大きい。

「ゴーストバスターズ アフターライフ」(21年)のキャリー・クーンが今回も逆境にめげないしっかり者の妻役にはまっている。

監督は小品、逸品が競い合うサンダンス映画祭で高く評価されたショーン・ダーキン。激しくなじり合うハリウッド流の家庭崩壊劇が、最後は小津安二郎のホームドラマのように決着するところも面白かった。【相原斉】

(このコラムの更新は毎週日曜日です)