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2012年に蜷川幸雄演出で舞台化、村上春樹の静謐な世界観を舞台に立ち上らせて高い評価を得た『海辺のカフカ』。再演となる今回は、主人公の田村カフカにこれが初舞台の古畑新之を抜擢。カフカが身を寄せることになる図書館の管理者・佐伯に宮沢りえ、同じく司書の大島に藤木直人、そしてカフカが出会う美容師・さくらに鈴木杏という新キャストで贈る。5月下旬、初日を10日後に控えた稽古場を訪ねた。
自分の分身と思われる“カラス”の囁きによって、「世界で最もタフな15歳になる」と決意した“僕”(田村カフカ)は、東京の家を出て四国へと向かう。旅の途中で出会ったさくらとふたりの時間を過ごした“僕”は、やがて司書の大島の提案で高松の甲村図書館で働くことに。一方、猫と会話ができる老人のナカタも、長距離トラックの運転手・星野に助けられて四国へ向かっていた。“僕”は図書館の管理者である年配の女性・佐伯が母親ではないかという想いと、父にかけられた“呪い”の中で、ある少女の幻影を見始める。ふたつの物語は次第にシンクロしてゆき…。
カフカ役の古畑は黒目がちの強い眼差しが印象的だ。古畑といえば、GoogleのCMで外国人のルームメイトとネット検索をしながら遊ぶ姿を覚えている人も多いだろう。芝居はこれが全くの初めてということもあるかもしれないが、それゆえに単語を丁寧に粒立てて発するセリフ回しは、不思議と少年像と親和性を示して違和感がない。休憩中はじっと考え込むかと思うと、宮沢に演技について質問するなど、稽古の時間いっぱいを研鑽に充てようとする様子が見てとれた。
その宮沢は、50歳前後の佐伯と、カフカが見る少女のふた役。まだ稽古場ながら、諦念をまとうような佐伯と瑞々しい少女とを演じ分けてゆくのがさすがだ。歌う場面の少女は身体の内側から発光しているかのようで、まさに宮沢ならではの存在感。とある事情を抱える大島役の藤木は、地味な眼鏡姿だが、その声音はどこか鋭い意識のようなものを伴う。カフカと大島のやりとりでは、役柄と役者それぞれの無意識と意識の対比が面白く映った。
蜷川組常連の鈴木の他、初演から続投の柿澤勇人、高橋努、木場勝己らキャスト陣と蜷川は、何度もリハーサルを繰り返しながらも、軽口を交わすなどどこかリラックスした表情。いつもの蜷川作品が祝祭性を帯びた鮮やかな油彩のイメージなら、本作は原作の色味にのっとった繊細な水彩のそれかもしれない。初演に続き、透明な箱を使ったセットも再登場するとか。その妙味を再び味わえる機会を喜びたい。
公演は6月1日(日)から7日(土)まで埼玉・彩の国さいたま芸術劇場 大ホール、6月13日(金)から16日(月)まで大阪・シアターBRAVA!、6月21日(土)から7月5日(土)まで東京・赤坂ACTシアターにて。
取材・文:佐藤さくら
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