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近藤芳正「舞台から1回離れてみようと思った」 一人芝居『ナイフ』開幕への思い
2021年11月12日 16時28分 [演劇]
撮影:石阪大輔

重松清の小説『ナイフ』に収録されている1編をもとにした、近藤芳正による一人芝居『ナイフ』が2022年1月21日から水戸芸術館ACM劇場で、2月4日から東京芸術劇場シアターイーストで上演される。

いろいろなことから逃げていた父親。ある日、父親はひどい落書きがされた教科書を見つけ、息子がいじめられていることに気づく。この事実とどう向き合っていいか分からない。そんな中、幼なじみが頑張っている姿を目にしたり、偶然サバイバルナイフを手に入れたことから心に変化が訪れる。やがて父親は少しずつ息子と向き合い始めてーー。そんな父と息子の愛と再生の物語だ。

昨年6月に上演が予定されていたが、コロナ禍のために“中止”となった本作。近藤は“中止”を聞いたときは「本当にガクッとなった」といい、今回の舞台についても「正直、まだ公演ができるのかどうか、半信半疑。(気持ちの)立て直しを図っている状態」と明かす。

近藤は、京都に移住したり、結婚したりと、生活環境が大きく変わったこともあり、舞台との向き合い方を改めて考えたという。「生活のためという方もいるだろうし、それでも舞台が好きでやっている方もいる。僕はどうしようと考えた時に、舞台から1回離れてみようと思った。稽古したものがなくなるというのは精神的にきついから」と話す。

俳優として、その決断は怖くなかったのかと尋ねると、近藤は即座に「怖くはなかったです。こだわっていたものが一気になくなった」と話す。「これまで仕事=(イコール)自分の評価だと思っていたけれど、仕事は仕事で、生きていくうちの一部。愛情を育てるとか、友情を育てるというところが僕は欠けていたので、そこを一生懸命修復しているところ」とも。人生観が変わった様子を語った。

ただ、本作は自身が持ち込んだ企画ということもあり、「これだけは絶対やろうと思っています」と意思は強い。

重松清とは以前から交流があったという近藤は、重松作品が大好きだといい、「本当は弱いくせに、何か強がりたい。そういう人間が描かれていて、非常に惹かれる」と、その魅力を話す。「弱者の味方でいてくれて、そして、どこか少年のような心を持っていて。読んでいると、自分の子どもの頃を思い出せるんですよね」。

□字ロックの山田佳奈が脚本・演出、大石めぐみがフィジカルコーチを務めるなど、信頼のおけるメンバーとともに作り上げる一人芝居。近藤は「登場人物たちは必死に三者三様にあがいてる。一方、体がそんなに動くわけでもない僕が、決して楽ではない一人芝居をやること自体もあがき。つまり、あがいてる人たちを、あがきながら演じる。生きるヒントや勇気を感じてもらったら、芝居をやる方としてはこれ以上の幸せはないです」とメッセージを送った。

水戸公演は1月23日(日)まで全4公演。東京公演は2月6日(日)まで全4公演。

取材・文:五月女菜穂

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