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社会や世界への違和感を、実直かつ巧みにコメディへと昇華させた、二兎社『歌わせたい男たち』。2005年、数々の演劇賞を総なめにした代表作が、初演と変わらぬ顔合わせで再演が決定。2月29日、紀伊國屋ホールでその初日の幕が開いた。
物語の舞台は、とある都立高校の保健室。卒業式を2時間後に控えた朝、ピアノ伴奏を任された新任音楽講師・仲(戸田恵子)は緊張のあまり、目まいで足もとがおぼつかない。しかし与田校長(大谷亮介)は何としても、彼女にピアノを弾かせなければならなかった。都からの通達で、「君が代」は生伴奏かつ全員起立で歌わせることが職務命令とされているからだ。そこへ、学内でひとり「君が代」反対派の社会科教師・拝島(近藤芳正)がやってくる――。
ひとすじなわではいかない題材だ。けれど作・演出の永井愛は、それをただ声高に訴えたりなどしない。冒頭、花粉症で鼻をずるずるさせた与田校長が登場した時点で、観客の心は一気にほどける。こういう人、いるいる!と、身近な人たちの身近な物語として、観る側の心は整っていく。そこへ、彼らの諸事情など何も知らずにこの日を迎えたヒロイン・仲先生。教師たちの熱弁の真ん中に挟まれ翻弄されつつ、コトの本質はわりとしっかり見えている。そんなチャーミングな人物像を、戸田恵子が好演。
胸を打つのは近藤芳正演じる拝島先生だ。自分の思う道を行きたい、願いはただそれだけなのに、現実たちはよってたかってそれを阻止してくる。その憤りとやるせなさに、真っ赤になってころげまわる拝島。ラストシーン、彼の無言の選択が、観客の心を強く揺らす。「正と否」「勝ち組と負け組」などでは決して計りきれない、人生の一瞬。
何も考えない、というのもたしかに処世術のひとつだ。世界には無数の人がいて、人の数だけ持論があり、「ただひとつの正解」なんてものは存在しない。だから考えることをやめて、黙々と日々をしのいでいけばいいのだと、多くの大人は自分に言い聞かせながら日々を重ねてきただろう。けれどそんな日々が少しでも寂しいと思うなら、必見。まずは目の前の誰かとほんとうの言葉を交わそう、と背中を押されるエールの1本だ。
この公演は、3月23日(日)まで東京新宿・紀伊國屋ホールにて上演。その後、大阪、愛知、福岡ほか全国で上演される。尚、東京公演では、作・演出の永井愛とゲストによるアフタートークが、3/6(木)には秋元康を、3/21(金)には野田秀樹を招いて行われる。
取材・文:小川志津子
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