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萬斎&菊之助が親子に! 蜷川演出でよみがえる清水邦夫の傑作時代劇
2008年05月08日 17時52分 [演劇]
撮影:谷古宇正彦

蜷川幸雄演出による、「わが魂は輝く水なり -源平北越流誌-」が5月4日開幕した。本作は蜷川の盟友・清水邦夫が、1980年に書き下ろしたもの。源平合戦の渦中、平家軍の老武将・斎藤実盛と、その息子・五郎の亡霊を中心に、現実と狂気の間でさまよう人間たちの悲しき運命が描かれる。

冒頭、一枚の水墨画を思わせる舞台から、五郎役の尾上菊之助が現れる。白い衣をたなびかせ、流れるように彷徨う五郎。彼の周りだけ、まるで霞がかったような……。亡霊ながらも、そこには人を惹きつけるような色気が漂う。妖艶な魅力をもつ、菊之助だからこそのなせる業だと言えるだろう。

亡霊となった五郎は、野村萬斎演じる父・実盛に寄り添い続ける。“血の荒れ野を駆け巡る獣”と恐れられた実盛も、抗えなかったのが自らの老い。平氏軍を裏切った五郎を恨めしく思いつつも、我が子を求めずにはいられないのだ。実盛と萬斎の間には、実際には15歳以上の年齢の開きがある。だがその差をまったく感じさせないほどに、萬斎はこの老いた武将を我が物とすることに成功している。

実盛ら平家軍と敵対するのが、源氏軍の木曾義仲。不思議な力をもつ森の国で育った義仲軍は、圧倒的な勢いを誇るも、いつしか狂気に侵食され、ついには破滅の道を辿ることとなる。その義仲の妻・巴を演じているのが、実力派の秋山菜津子。森の国に流れる水のごとく輝きを放っていた巴から、狂気に身をやつしていく巴へ。その凄みのある演技は、役者・秋山菜津子の力量を改めて印象づけるものとなった。

全編を通して言えるのは、清水の文体の圧倒的な美しさ。その言葉の一つ一つが、森の国のまばゆいまでの輝きをかたち作っていく。と同時に、戦によっていびつになっていく人間の姿をも、あぶり出していくことになるのだが……。そしてラスト、実盛親子が語り合うシーンは、美しさの最たるもの。かつて森の国に背を向けた実盛だが、死を目の前に、水の流れを感じて心を落ち着かせる。若き日の五郎が、義仲や巴とともに輝いていた、あの森の国の水の流れに。ここで初めて、父と子はつながり、本当の絆で結ばれることができたのだ。

本作は遠く離れた時代を描いたものだが、現代にも通じる思いや絆はある。清水が書き、蜷川が伝えたかったのは、まさにそこなのではないかという気がした。

公演は5月27日(火)まで、東京渋谷・シアターコクーンにて上演。

取材・文:野上瑠美子

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