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井上ひさしの初期の傑作戯曲に、蜷川幸雄が挑む舞台「道元の冒険」が、7日、その幕を開けた。ふたりがタッグを組むのは、「天保十二年のシェイクスピア」「薮原検校」に続いて3作目。会場に鐘の音が響き渡ると、そこは1243年の興聖宝林寺。日本曹洞宗の開祖・道元の弟子である禅僧たちが、鐘に出来たひび割れを見て口々に不安を漏らしている。というのも、道元が立ち上げた新仏教について、幕府や朝廷、比叡山の僧兵たちから圧力がかかるのではないかと危惧しているためだ。そんな彼らにはもう一つの不安が。それは最近、道元がよく見ると言う夢の話。夢の中で彼は、婦女暴行の罪に問われ、警察の取り調べを受けているらしい。そんな中、開山七周年の余興“道元禅師半生記”が始まり……。
仏教の話ということで、小難しいのでは?と思う人も多いだろう。しかし笑いの要素がふんだんに盛り込まれており、3時間20分(休憩含む)という時間を感じさせない、軽やかさをもって物語は進んでいく。その要因として大きな割合を占めているのが、やはり井上作品ならではの音楽。軽妙な(その多くにダジャレを交えた)言葉が、伊藤ヨタロウの音楽にピタリと乗り、シーンシーンを流れるように彩っていく。ある時はブルース、ある時はオペラ、そしてある時は某有名大学の校歌(!?)まで、そのジャンルは実に多彩だ。
そしてもう一つの特徴が、全部で50役以上という登場人物の多さ。ほぼすべてのキャストの役柄に“主として”と記されている通り、タイトルロールの道元を演じる阿部寛で2役、最も多い木場勝己に至っては、なんと8役をこなしている。そのスピーディーかつ、ユーモアたっぷりの早替えにも注目を。
道元のほか、夢の中の男を演じた阿部は、やはり別格の存在感を発揮。開祖としての威厳と、そこに滲み出る不安を見事に表し、役者としての器の大きさを感じさせた。初舞台とは思えないほどの、堂々たる姿を見せたのは栗山千明。舞台女優という新たな一面を、本作で開花させている。納得の安心感をもってそれぞれの役を演じ分ける木場に、飄々とした中にも、堅実な巧さを見せる北村有起哉。蜷川常連組の高橋洋と大石継太は、絶妙な間と高い演技力により、本作で一番の笑いをとっていた。横山めぐみ、神保共子、池谷のぶえ、片岡サチらの細やかな演技も光る。
全編に笑いが溢れる舞台だが、道元と夢の中の男の関係から、意外なラストが待ち受けている。これまでの笑いが大きかったぶん、ズシリと胸に迫るものがあるはずだ。
本公演は、7月28日(月)まで東京・渋谷シアターコクーンにて上演。その後、8月3日(日)〜10日(日)まで大阪・シアターBRAVA!にて上演される。
取材・文:野上瑠美子
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