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7年ぶりの新作『宮廷画家ゴヤは見た』が10月に公開になる、ハリウッドの巨匠ミロス・フォアマン。『カッコーの巣の上で』(1975)や『アマデウス』(1984)などで知られる彼が、ハリウッドへ渡る前に祖国チェコで撮った3本とアメリカでの第1作が、ぴあフィルムフェスティバルで上映される。チェコ時代の彼の作品はソフトになっていないものも多く、ましてやスクリーンで見られることは滅多にないため、ぜひとも見ておきたい貴重な機会である。
4本の中でも最もレアな1本が、『黒いピーター』(1963)だ。劇場長編第1作目でありながら、いきなりロカルノ映画祭でグランプリを受賞し、フォアマンの名をヨーロッパに知らしめた名作である。しかし日本では劇場公開されておらず、ソフトも出ていないという“幻”の1本だ。
子供を何とか立派な大人にしたい厳格な父親と、まだ子供だと思っている母親に挟まれ、一生懸命背伸びするも仕事も恋もスムーズにはいかない思春期の少年の姿が、自然なタッチで描かれている。計算しすぎない手持ちのカメラワークや半即興的な台詞回しから等身大の若者の姿を引き出す演出は、フランスのヌーヴェル・ヴァーグの影響が色濃く見られる。
次に撮った『ブロンドの恋』(1965)は、アカデミー賞とゴールデン・グローブの外国語映画賞にノミネートされ、ヨーロッパのみならずアメリカでの評価も高めた1本だ。この時代の作品の中では一番の傑作と言えるだろう。この作品もまた、日本では劇場公開されていない。
工場で働く少女が、旅回りのバンドのピアニストと出会い、彼を追ってプラハに行くが、彼にとっては旅先の情事だった、というほろ苦い恋物語なのだが、ラブストーリーかというとちょっと違う。どちらかというと少女にとって恋は、現在の単調な日常から救い出してくれる夢なのだ。だからプラハのピアニストの家では、少女にちょっかいを出した息子に母親がお小言を食らわせる様子を、親子3人が川の字になって寝るショットでユーモラスに見せ、彼らを冷たく描いて少女の悲哀に寄っていくようなことはしていない。突然少女に押しかけられたピアニスト家族のリアクションを描写することで、彼女の夢と現実が噛み合っていないおかしさと悲しさが浮かび上がるのだ。フォアマンのこの頃の作品がおかしさと悲しさを常に同時に描いているのは、二つは表裏一体であり、そして映画だからこそ同時に描けるのだとわかっているからだろう。
文:木村満里子
第30回ぴあフィルムフェスティバル 特別招待作品「巨匠 ミロス・フォアマンの世界」
『黒いピーター』7月26日(土)16:00〜、7月31日(木)19:30〜
『ブロンドの恋』7月26日(土)12:00〜
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