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巨匠ミロス・フォアマンが故国チェコで撮った初期作品4本が、現在開催中のぴあフィルムフェスティバルで上映される。どれもスクリーンで見られる機会はほとんどない貴重な作品ばかりだ。
『消防士の舞踏会』(1967)は、フォアマン初のカラー作品。『ブロンドの恋』(1965)に続きアカデミー賞外国語映画賞にノミネートされている。
消防署のお偉い方が、がんになった元署長を表彰するためパーティーを開催するが、景品は盗まれ、美人コンテストでは美人が見つからない。何もかもが予定通りにいかない中、必死に取り繕えば繕うほど事態が悪化していく様子を、ドタバタ喜劇風に描いている。ラストのイオセリアーニのようなおとぼけぶりがおかしく、ドタバタよりおとぼけユーモアを全面に出した方がフォアマンには合っただろうと思われるが、彼が描きたかった官僚社会へのキツーイ皮肉はドタバタの方が伝わりやすかったのかもしれない。
彼はこの後アメリカへ渡り、アメリカ進出第1作目『パパ/ずれてるゥ!』(1971)を発表、カンヌ映画祭で審査員特別賞を受賞する。この作品は日本では1972年に公開されたものの、現在日本のみならずアメリカでもソフトが出ていないため、こちらもまたかなり貴重な上映だ。
娘が家出し、家族崩壊の危機に立ち向かうために父親と母親がタッグを組んで四苦八苦する様子がユーモアたっぷりに描かれる。題材はシリアスな社会問題なのだが、子供の世界を理解するために親たちがマリファナを試してハイになるなど、親の方が放蕩娘を“理解”しようと努める映画は、この時代、とくにアメリカではかなり珍しい。『黒いピーター』(1964)と『ブロンドの恋』が思春期の憂鬱なら、これは親世代の憂鬱を描いた狂想曲といえるだろう。また当時サイモン・シスターズからソロになったばかりのカーリー・サイモンと、映画初出演(!)の若きキャシー・ベイツ、そしてアイク&ティナ・ターナーとして活躍していたティナ・ターナーらが顔を出しているのも必見だ。
彼のこの時期の作品には多かれ少なかれジェネレーション・ギャップが描かれ、キャラクターそれぞれの立場を平等に見つめる姿勢からか悪者が存在せず、チェコ・ニューウェーブの特徴である皮肉のスパイスはあっても決してシャープになりすぎずに温かさがある。4本を通して見ると、アメリカに渡り商業監督としてビッグになるに従い消えていった、フォアマンの作家性というものが明確に見えてくる。
文:木村満里子
第30回ぴあフィルムフェスティバル 特別招待作品「巨匠ミロス・フォアマンの世界」
『消防士の舞踏会』
7月26日(土)14:00〜
『パパ/ずれてるゥ!』
7月26日(土)18:30〜、7月30日(水)20:30〜
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