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映画への愛と真摯な姿勢が光るPFFグランプリ受賞作
2008年07月28日 12時35分 [映画祭]
『無防備』メイン画像

自主映画の祭典として、『ジョゼと虎と魚たち』の犬童一心、『ウォーターボーイズ』の矢口史靖、『アフタースクール』の内田けんじら、現在第一線で活躍する映画監督を数多く輩出してきた、ぴあフィルムフェスティバル(PFF)。記念すべき第30回の今年、メインプログラムのコンペティション部門で最高賞となるグランプリに輝いたのは、市井昌秀監督の『無防備』だった。

今年32歳になる彼は、『隼』が一昨年のPFFで準グランプリを獲得。2年の時を経ての念願のグランプリ受賞で、映像作家として大きな成長を示した形だ。

受賞作の出発点は、授賞式での監督の言葉を拾うと「妻の妊娠がきっかけ」という。その自身の体験が色濃く反映されたと思える物語は、不慮の事故で流産した女性が主人公。夫との関係は冷え切り、傷を癒せないままでいる彼女が、勤め先の工場で働きはじめた出産間近の妊婦との交友の中で、自身を見つめ直していく。

喜びの絶頂にいる同姓に出会ったとき、絶望の淵にいる女性に次第に芽生えてくる勇気や明日への希望、それとはまったく正反対にどうしようもなく抱いてしまう嫌悪感と憎悪、そして彼女が決して誰にもさらけだすことのできない胸の中にしまわれた苦悩と悲しみ。市井監督は、そんな日ごとに変化するヒロインの心の機微を的確なショットを重ね、実に丁寧な作りで描き出す。ヒロインのその後を予感させたり、そのときの心情を現すような風景カットが何気なく差し込まれたりと、その構成力は心憎いほど綿密にしてシャープ。社会派とはいわないが“生命の誕生と死”という深遠なテーマを含む物語を語るにふさわしい人物まで俳優たちの演技を高めた演出力も目を見張る。審査員の香取慎吾が「衝撃の出産シーン」と語った、その場面は大きな論議を呼ぶだろうが、この題材を扱う上で避けて通ることはできず、しっかりとドキュメントしなくてはならなかったもの。その覚悟は映像作家としていようとする彼の確固たる意志を感じさせ、そこには志の高さを垣間見た。

一方で、あまりに映画に対して真摯で愛をもって向き合いすぎたゆえか、オーソドックスな形にまとまりすぎてしまった印象も。受け手の心をわしづかみにするような瞬間が乏しい。「自分の作品を大切にするあまり、小さくまとまってしまっている」と全体に向けた総評で、審査員の石井聰亙監督が述べていたが、この作品も当てはまる。誰もが納得してしまう映画どまりで、人々の感情を激しく揺さぶるまではいかない。“映画の香りは確かにする。でも、作り手の香りが薄い”といった印象で、個人的な見解ではあるが、もっと肝心の映像作家としての市井監督自身の個性やこだわりを恐れることなく、前面に押し出してきてほしかった。

とはいえ、グランプリにふさわしい力量ある作品であることは確か。今後、彼が日本映画界の新たな旗手と成長することに期待したい。

文:水上賢治

『第30回ぴあフィルムフェスティバル』
招待作品部門 開催中

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