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1944年ドイツ。ナチス宣伝相ゲッベルスは、強制収容所から元俳優のユダヤ人、グリュンバウム教授をベルリンに招く。連合軍との戦いに疲弊し、ウツ状態に陥ったヒトラーに全盛期のカリスマ性を取り戻させ、5日後に迫った大演説を成功に導こうとしたのだ。こうして始まった“演説指導者”グリュンバウムと“教え子”ヒトラーの交流は、独裁者の意外な人間性を浮かび上がらせることに……。本国ドイツで大論争を巻き起こした『わが教え子、ヒトラー』のダニー・レヴィ監督に話を聞いた。
「重い題材を扱った作品だけど、一種のパロディーでもあるんだ。フィクションを織り交ぜながら、ヒトラーという人物を笑い飛ばすことで、問題提起が出来ればと思ったんだよ」と語るレヴィ監督は、ユダヤ人としてのルーツを持ち、一歩引いた視点で今だナチスの歴史を克服できないドイツを見つめている。「(2006年の)ワールドカップを機に、ドイツの国民は自分たちを愛するという気持ちに目覚めたんだと思う。その前後に、過去のいまわしい出来事を考察しようとする映画(『ヒトラー 〜最期の12日間〜』、『ヒトラーの贋札』など)が増えているのかもしれない。ただぼくの作品は、まったく違うアプローチを取った。笑いを武器にね」
しかし、ときに同情さえ覚えてしまう人間味あるヒトラー像に、ドイツ国民が敏感になったのは言うまでもない。「実は公開前からずいぶん話題になっちゃってね。ヒトラーを人間的に描くことは是か非か。なんと各地でアンケートまで実施されたんだ。結果は60%の人が批判的な答えだった。正直ショックだったし、ヒトラーやナチスを許すつもりなのかと非難もされた。もちろんぼくは許していない。ただ、なぜあのような残虐な行為が起こったのか理解したいと思っているんだ」
命がけでヒトラーと接し、その内面に触れるグリュンバウム教授を演じるのは『善き人のためのソナタ』の名優ウルリッヒ・ミューエ。昨年胃ガンで急逝した彼にとって、本作は遺作となった。「彼の大ファンだったから、本当に悲しい。撮影中は、彼自身ガンについては知らなかったし、告知を受けたときも絶対克服できると信じていたはずだよ」とレヴィ監督。有名俳優であるウルリッヒにとって、今作への出演はリスクも少なくなかったはずだが「彼はこのプロジェクトをとても愛してくれた」という監督の言葉通り、真摯でユーモアに富んだ名演を披露している。
最後にレヴィ監督は「どんな真実であっても、映画というフィルターを通せばウソになってしまう。映画はあくまで芸術なんだ。だから、史実をそのまま再現したような映画は滑稽(こっけい)だと思うんだ。『わが教え子、ヒトラー』はある意味、あの映画に対する返答でもある。ぜひ自分の目で確かめて、頭で考え、そして心で感じてほしいね」と作品に対する思いを語ってくれた。フィクションならではの自由な発想が突きつける“真実”とは? 日本でも大きな話題を集めるであろう『わが教え子、ヒトラー』に注目したい。
文:内田涼
『わが教え子、ヒトラー』9月6日公開
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