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消えることのないホロコーストの傷跡を冷静なまなざしで描く【東京フィルメックス】
2008年11月27日 10時00分 [映画祭]
『いつか分かるだろう』場面写真

『キプールの記憶』などで知られるイスラエルの気鋭映像作家、アモス・ギタイ監督。いわゆる“社会派”の監督として知られる彼は、今回の新作『いつか分かるだろう』でナチスによるホロコーストに目を向けている。

物語の舞台はドイツではなくフランス。亡き父の手紙により母方の祖父母がホロコーストの犠牲者で、自らの体にユダヤの血が入っていることを初めて知った40歳の息子と、それをこれまで一切打ち明けないできた母親の関係を見つめる中で、決して消えることのないホロコーストの傷跡が描かれる。カトリック信者でフランス人と疑わずに生きてきた中で、初めて祖父母の最後の真実を知り、打ちひしがれる息子、それでもなお息子に事実を伝えることなく、あえて孫に自らの体験を語り明かす母。この両者の間にある溝からは、ナチス政権時代のフランス政府がユダヤ人をドイツへと送っていた事実、その犠牲者の戦後補償など、今も続く歴史問題が次々と浮かび上がる。

ともすると、声高に正義を叫ぶような内容に傾きがちな題材だが、そこはさすがギタイ監督。勧善懲悪になることなく、極めて冷静な視点から、沈黙し続けざる得なかった母親の胸の内をまるで代弁するような静ひつなタッチで描くことで、一言では片付けられないホロコーストがもたらした問題の根深さと犠牲となった人々の悲痛な心の叫びを伝える。それを目前としたとき、誰もが心を大きく心を揺さぶられるに違いない。

登場人物の秘めたる心を的確に表現した母親役のジャンヌ・モロー、息子役のイポリット・ジラルド、その妻役のエマニュエル・ドゥヴォスらフランス映画界の実力派揃いのキャストが見せる演技も忘れがたい。また、撮影は現在公開中の河瀬直美監督の『七夜待』も手がけているキャロリーヌ・シャンプティエが担当。絶妙のタイミングで緩やかに横移動、時に縦から横へと動き、その場にいる人々の心情と空気を伝えていく彼女のカメラワークも素晴らしい。

文:水上賢治

特別招待作品『いつか分かるだろう』
■東京フィルメックス
11月30日(日)まで有楽町朝日ホールほかにて開催中

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