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北京で暮らす庶民のありのままの生活を描く『黄瓜(きゅうり)』【東京フィルメックス】
2008年11月27日 10時00分 [映画祭]
『黄瓜(きゅうり)』場面写真

高架道路の合流点のような場所の手前にひとりの男がたたずみ、やがてカメラは男の視点の先を追うようにして高架下の広場へ移り、そこで男女が手を取り踊りだす。こんな長回しで撮られたシーンから、『黄瓜(きゅうり)』はスタートする。

このファーストカットで、一気にその世界へと引き込まれた。手掛けたのは、中国の弱冠32歳のチョウ・ヤオウー監督。これまで、いくつかの短編やアニメ作品を発表しているが、長編は初。その事実にまず驚かされる。ジャ・ジャンクー監督主宰のワークショップに参加後、本作を作り上げ、冒頭の長回しには影響を感じるが、だからと言って彼にオリジナリティーが欠如しているわけではない。失業して男としての性機能も欠落してしまった中年男、映画界入りを目指すも一向に芽の出ず、女のヒモのような生活を送っている若者、10歳の愛息を大学に行かせることだけを願い、無認可の行商を続ける父親。この3人を主人公にした物語は、まったく別の逸話として進展するが、最後には見事にシンクロし収束していく。

自分も含め日本人だと気づかないが、話を聞くと、それぞれの主人公が食べる料理をはじめ、そこかしこに細かい比喩が込められているそう。このような実に奥深い物語の作り手としての才能を見せる一方で、冒頭の長回しで証明されるように映像の作り手としての手腕も確か。実にバランスのとれた物語と映像からは、北京オリンピックの張りぼて的な作られた日常ではなく、北京で暮らす庶民のありのままの生活が見えてくる。さらに場面の切り替えで少し長めにとられた黒のブランクが実に効果的。この間が、受け手にさりげなく映画を読み込ませていく。

世界が認めるジャ・ジャンクーの後継者となるか、まったく別の異才となるのか? それは次回作以降に判断されること。いずれにしろ中国に将来有望な新たな才能が誕生したことは確かだ。

作品評価:★★★★
文:水上賢治

コンペティション『黄瓜(きゅうり)』
■東京フィルメックス
11月30日(日)まで有楽町朝日ホールほかにて開催中

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