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眠れる感情をあぶり出し、痛みの果てまでも見据える恋愛映画「PASSION」【東京フィルメックス】
2008年11月27日 10時00分 [映画祭]
『PASSION』場面写真

濱口竜介監督が東京藝術大学大学院の修了作品として完成させた恋愛映画である。パーティー会場での何げない会話、男子3人がそこから女友達の家へ移動するシークエンスを通して、主要登場人物5人の性格づけや微妙な関係性を手際よく描く。横浜みなとみらいの夜景はしらじらしいほど美しく、ひょっとしてこれは都会のおしゃれな群像劇なのかと不安がよぎる。ところが、この一見どうってことのない導入部が曲者だ。どうってことのない言葉のやりとり、どうってことのない出会いが、登場人物の眠れる感情を突き動かし、彼らの人生を根底から揺さぶる事態に発展していく。

最も重症なのは、パーティー会場からひと足先に自宅に戻った果歩である。結婚を間近に控える同棲相手が朝帰りしてくると、彼女は一睡もしていないことがわかる。これまた一見どうってことのない感じで、ケロッと一睡もしておらず、それが逆に何やら不穏な気配を感じさせる。この映画はやたらセリフが多いのだが、だんだん登場人物が現実を逸脱していく違和感のようなもののニュアンスが実に繊細だ。こういう監督にはぜひスリラーを撮ってほしい。

セリフの応酬も決して説明調ではなく、それ自体が登場人物の本音と建て前を容赦なくえぐる鋭さを備え、あまりの真に迫った臨場感ゆえに笑いすら喚起する。脚本も演技も明らかによく練られたこの映画は、過剰なギャグや予定調和には陥らず、どう転ぶのかまったく先が読めない。それどころか狂気すら感じさせる異様な瞬間までが、まさしくどうってことのない風情で挿入される。例えば「あなたには真実がない」などというセリフが唐突なタイミングで発せられるのだから、ひとときも油断ならない。さらにすごいのは、冷徹なのか直情的なのかよくわからないこの映画が、切迫感を募らせる男女の恋愛感情の核心にぐんぐん迫っていくことだ。もはや迷いなど一切なく、辛口の恋愛ものの“痛い”とされるレベルの、さらなる先の感情までも見すえようとする。恐ろしいほど真っすぐな視線で!

キャストでは、愛の狂おしさに憑依されたとしかいいようのない果歩役の河井青葉がずば抜けている。痛々しさがついには神々しさへと転じるその驚くべき変容ぶりは、あの『UNLOVED』の森口瑤子に匹敵するのではないか。

作品評価:★★★★ 高橋諭冶

コンペティション作品『PASSION』

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