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昨年フィルメックスで上映された同監督の『最後の木こりたち』は、厳冬の中で働く木こりと馬の厳しくも単調な生活を客観的に撮っていたため、記録映画のような醍醐味がありつつも多少の退屈さは否めず、もっとうまく作れたのではという思いが残った。しかしその不器用でゴツゴツした感触は、取材対象の荒々しい自然とうまくマッチして独特の魅力を放ち、すっかり観客をとりこにしていた。今回は一転、かなり洗練され、カメラは雄弁に語るようになり、編集も流れるようにスムーズ。何と言っても一番の違いは、人物に焦点を当てた点だ。
主人公は監督の軍隊仲間だったというハン。貯水池を作るために人々が立ち退いた土地で猟をしている。やがて村のやっかい者シャオリーツーが出現すると、その強烈な個性がしっかり者のハンとの間に面白いバランスを生み、フィクションだと言われても違和感がないほどのドラマティックな展開を見せる。そしてハンが逃亡していなくなると、シャオリーツーが主人公に浮上。これがドキュメンタリーの面白いところだ。主人公が消えてしまうなど、何が起こるかわからない。変人シャオリーツーの奇妙な言動は物語にたびたびユーモアをもたらしたが、彼が毎晩歌う調子っぱずれの歌や狂ったように踊る姿からは、底辺で生きる人々の鬱屈したエネルギーが感じられ、胸が痛くなる。
ユー・グァンイーの作品に出てくる人々は、まるで消えて失くなってしまうかのような存在の不確定さがある。彼らがどんなにエネルギッシュであろうとも、カメラが必死に働く彼らのたくましさを追おうとも。密猟の罪に問われて逃げたハンが画面から忽然と消えてしまったように、彼らもまた消えてしまうような存在の不安定さが常にまとわりつく。そこに監督の力強い描写以上の真の才能を見る。なぜなら我々は気づくからだ。彼らは単に仕事や生活が奪われようとしているのではない、存在が抹殺されようとしているのだと。
作品評価:★★★★ 木村満里子
コンペティション作品『サバイバル・ソング』
■東京フィルメックス
11月30日(日)まで有楽町朝日ホールほかにて開催中
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