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まず最初にカメラワークに目がいく。固定カメラで引きの絵を多用した映像が、手持ちカメラ全盛の時代に新鮮に映ったからだ。奥行きのある場所や俯瞰を使い、時にミヒャエル・ハネケのように人物を画面外に出して声や音だけで想像させるなど、固定カメラだからこその空間の使い方がよく考えられている。しかし決して実験的なわけではなく、あくまでも町ですれ違う3人の男を効果的に交錯させるための演出という点を忘れていない。カメラはあくまでのそのためのツールなのだ。この監督はかなり細かく計算して多くのことを成し遂げている。それはカメラだけでなく、脚本についても同様のことがいえる。
たとえばタイトルの『黄瓜(きゅうり)』は、野菜売りとキュウリを買う客という主人公3人の接点であるだけでなく、モチーフとして端々に使うことで、物語の背景やキャラクターに説得力を与えている。3人はまったく異なる世代、職業ながら、それぞれが追い詰められた状況にあり、ときにキュウリがその救世主という意外な形で絡んでくるのだから面白い。また北京郊外という都会でも地方でもない場所を舞台にしたことで、北京出身のため逆差別を受ける失業中の男、北京で成功することを夢見る脚本家の卵、子供を北京の学校に通わせる野菜売りという登場人物たちの状況を、独特のニュアンスをもって表すことに成功している。とくにまっすぐに伸びた線路を登場人物たちが横切っていく姿は、都会と田舎のどちらにも行けず、進むことも戻ることもできない彼らの人生を実に的確に表していて素晴らしい。
しかしこういったディテールへのこだわりが物語を豊かにしている一方で、演出にはどうもパンチが足りない。撮り方も脚本も外から外から固めていったようなうまさで、監督の内側から出てくるものがあまり感じられないのだ。撮らずにはいられないものよりも撮りたいものを優先してしまう今の中国の若手監督の傾向がここにある。
作品評価:★★★ 木村満里子
コンペティション作品『黄瓜(きゅうり)』
■東京フィルメックス
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