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アニメーションだからこそ描けた残虐な戦争の実態【東京フィルメックス】
2008年11月29日 15時55分 [舞台挨拶]
『バシールとワルツを』場面写真

パワフルでユニークな作品がコンペに入ってきた。イスラエルでまだ2本目だという長編アニメーション映画である。それも何とドキュメンタリータッチのアニメーションなのだ。冒頭、不思議な夢の話で始まり、記憶についての話がなされ、やや哲学的な会話が展開するところはリチャード・リンクレイターの『ウェイキング・ライフ』を思い起こさせる。しかしそれはやがて戦争にまつわる暗い記憶、それもかの有名なサブラ・シャティーラ事件へと発展していく。これはいまだに真相が明らかになっていない暗殺事件に単を発した、パレスチナ難民の大虐殺事件である。

主人公は1982年のレバノン戦争に従軍していたが、そのときの記憶がすっかり抜け落ちていることに気づき、軍隊仲間を次々と訪ねていく。通常ドキュメンタリーで起こる、記録映像の客観的な事実とインタビューの主観との間の微妙なズレがここにはない。これがアニメーションの強みであり、監督の狙いだろう。時間が経ち、記憶はより主観的なイメージに変化しており、ときにシュールになっていても、それがかえって事実の残酷さに近づき、ドキュメンタリーよりもずっとリアルに捉えやすい。そして独特の色調は見る者の体にぬるぬるとまとわりつき、出口のない悪夢のように見た者をいつまでもその世界観から離さない。

また兵士たちがいかに残虐な行為を行ったかを赤裸々に話す点もアニメーションだからこそ実現したといえるだろう。話は実に具体的で、事実に基づいていると思われるが、実際に顔を出すとなると誰も語りたがらないはずだ。今回同じコンペに出品されているレバノン映画『私は見たい』は2006年のレバノン進攻後の話で『バシール…』とは時代こそ違うが、どちらもドキュメンタリータッチのフィクションという形をとっており、いかにフィクションで真実を描くのが難しいか、いかにドキュメンタリーで戦争の真実を語るのが難しいかが見えてくる。

作品評価:★★★+1/2 木村満里子

コンペティション作品『バシールとワルツを』
■東京フィルメックス
11月30日(日)まで有楽町朝日ホールほかにて開催中

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