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旧ユーゴスラビア時代には指導者チトーの名を冠してティトフ・ヴェレスと呼ばれていた、マケドニアのヴェレスという街を舞台にした3人姉妹の物語。幾つもの丘に囲まれた街のど真ん中に建った巨大な工場から汚染物質がまき散らされている社会問題が背景にあるが、これが長編2作目の女流監督テオナ・ストゥルガー・ミテフスカはガチガチのリアリズムではなく、どこか非現実感のつきまとう詩的なタッチでストーリーを語っていく。
ドラッグ中毒の長女、行動派の次女。そして両親がいなくなって以来、口をきかなくなった末っ子のアフロディーテがこの映画の主人公だ。アフロディーテの虚ろな“内なる声”をモノローグに採用し、心を閉ざした彼女の視点で全編が進行する。それゆえにこの映画は、映し出される現実の風景にはむき出しの生々しさがあるというのに、そこはかとなく夢の中をさまよっているような錯覚を呼び起こす。実際、劇中にはアフロディーテが見る奇妙な夢が何度か挿入され、彼女の混乱が深まるにつれて現実との境界があいまいになっていく。環境汚染の街から出るに出られず、最初から破滅を約束されたヒロインの心象風景を、超自然的な感覚をこめて映し出すミテフスカ監督の独特の感性が際立っている。
その一方で、生活能力の欠如したヒロインをふたりの姉があっさり捨てるように家を出てしまったり、ところどころ釈然としない描写も目についた。とはいえ、赤いドレスなどの色彩を細やかに配し、フィルムならではの陰影を生かした映像は、今回フィルメックスで筆者が見た作品中で最も魅惑的であった。
この映画は希望らしきものがどこにも見あたらないが、見ていて不思議と気が滅入らない。夢と母親の記憶に囚われたヒロインに扮したラビナ・ミテフスカは監督の妹とのことで、劇中で彼女が発する無防備な危うさから目が離せなかった。
作品評価:★★★★ 高橋諭冶
『ティトフ・ヴェレスに生まれて』
■第9回東京フィルメックス
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