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目的も主義主張もない男がパリで人生を探求する【東京フィルメックス】
2008年12月01日 18時35分 [映画祭]
『夜と昼』場面写真

『気まぐれな唇』『女は男の未来だ』などでコツコツとファンを獲得してきた韓国のホン・サンス監督。しかし興行的にはかなり苦戦を強いられているのか、ここ数年は日本での公開状況が厳しくなってきただけに、大半をパリで撮ったこの新作を見られるのは実にうれしい機会である。ホン監督の作品というと、優柔不断な男と猫のように気ままな女たちの奇妙な恋愛模様を描いたものが多いが、今回もまさにそれ。つまり花の都パリが舞台だろうと、本質的にはまるっきり何も変わっていないのだ!

主人公のスンナムは既婚の画家。友人とマリファナを吸ったことで摘発されるのを恐れ、パリに逃亡する。冒頭、そんな滑稽な設定が手書きの文字でそっけなく示され、おなじみのホン・ワールドが展開していく。スンナムは衝動的に逃げてきただけだから、せっかくパリに来ても韓国に残してきた妻との長距離電話くらいしかやることがない。やがて彼の前にコリアン・タウンの女たちが現れ、男心がざわめき出すという物語である。

このスンナムという30代とおぼしき男、ほとんど自分というものがない。話に相づちを打つのはうまいが、これだという主義主張のようなものがまったくない。面白いのはそんな自我のない男が、異国の地で“無”の状態から、だんだん人生の切実な問題に向き合うようになっていくところ。まるで真っ白のスケッチブックに何度もデッサンを描いては、ちぎって捨てるかのように失敗を重ねながら。

スンナムがほれた女の足の指にキスをして、痛烈な説教を食らう夢のシーンの唐突なおかしさ! さらに終盤、韓国に戻ってからの夢のシーンでは、パリでスンナムが一度会話を交わしただけの女が登場し、これまた男のふらついた潜在意識の表現として実に面白い。この監督の映画は毎度「またかよ」と思いつつ、なぜかクセになって引き込まれてしまう。2時間25分の長尺もさほど苦にならず、日記風の軽妙なホン・サンス節が満喫できる一作だ。

作品評価:★★★+1/2 高橋諭冶

『夜と昼』
■第9回東京フィルメックス

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