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1970年代のイスラム革命前からイランで活動し、1990年代からアメリカに拠点を移したアミール・ナデリ監督の新作は、“実話に基づく”というテロップ付きの家族ドラマである。舞台はラスベガスだが、きらびやかなカジノホテルがひしめく中心街から外れた砂漠地帯。そこに建つ一軒家に住む親子3人のもとに、イラクからの帰還兵らしき軍服姿の若い男がやってくる。なぜか男は、親子の家をそこそこの高値で買い取りたいという話を持ちかけてくる。この家の敷地のどこかに、大金入りのトランクが埋まっているというのだが……。
ここからフィルムノワールのごとき怪しい気配を漂わせ始めるこの映画は、ウソかマコトかわからぬ儲け話をめぐる親子3人それぞれの反応を見据えていく。現実的な母親は芝生を育て、温室を築いた庭がほじくり返されるのを嫌がるが、賭博好きの父親は大金への興味を隠せない。やがて試し掘りを許された父親の欲望はぐんぐんエスカレートし、“掘る”という行為に取り憑かれ、ついにはブルドーザーまで駆り出すようになる。それは家や庭のみならず、家族までも破壊する結果を招くという皮肉なお話である。
ほとんどサイコ・スリラーのようなストーリー展開からしてすごいのだが、ラスベガスの乾いた土地柄がトーンを決定づけている映像のインパクトも強烈。雄大な山をバックに、父親が狂ったようにツルハシやスコップをふるうショットは、ご存じジョージ・スティーブンス監督の名作『シェーン』を連想させもするが、決してノスタルジックな味わいの作品でない。実際にラスベガスに2年間滞在したというナデリ監督は、普通は映画の題材にならないような大きな土地での小さな家族の営みに注目し、アウトサイダーの視点を保った独自の“アメリカ映画”を作り上げた。
“掘る”という行為に“欲望”というテーマを掛け合わせたアメリカ映画といえば、ポール・トーマス・アンダーソン監督の『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』が思い出されるが、映像からひしひしと伝わってくる作り手の情熱の強度においてはこちらもまったく引けをとらない。それにしても一家の息子の終始変わらぬクールな眼差しは何だったのか。あ然とするほど壮絶な破滅劇であった。
作品評価:★★★★ 高橋諭冶
『ベガス』
■東京フィルメックス
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