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演劇集団キャラメルボックスが1989年から継続しているハーフタイムシアターは、1本60分の“短編演劇”を2作品連続上演する形態。その最新作『すべての風景の中にあなたがいます』『光の帝国』が2月19日、大阪・サンケイホールブリーゼで開幕した。成井豊+真柴あずきの脚本・演出は、人気作家である梶尾真治と恩田陸による原作の世界観を充分に活かしながら、短編とは思えない濃密な三次元空間を創り上げた。
『すべての〜』(原作:梶尾真治『未来(あした)のおもいで』/光文社文庫刊)の舞台は、熊本と宮崎の県境にある白鳥山。山頂近くで突然の雷雨に見舞われたイラストレーターの滝水(岡田達也)は、遭遇した藤枝沙穂流(温井摩耶)と洞窟に避難する。沙穂流に惹かれた滝水が後日彼女に会いに行くと、そこに住んでいたのは彼女ではなく、同じ藤枝姓でも沙知夫(左東広之)と詩波流(岡田さつき)。滝水は沙穂流が落とした手帳の記述から彼女は27年後の未来にいるのではないかと思い……。
これぞ梶尾作品の真骨頂と言えるタイムトラベルラブストーリー。時代を越えても思いは通じる、素直にそう信じられるのは、岡田達也演じる滝水の実直さが説得力を増し、「歴史を変えてでもあなたに会いたい」という温井の演技に一縷も嘘がないからだ。人を思い、奇跡を信じたいと心から思える本作は、今の時代だからこそ観てもらいたい。
一方、『光の帝国』(原作:恩田陸『大きな引き出し』/集英社『光の帝国』所収)は不思議な能力を持つ常野一族の物語。小学4年生の春田光紀(畑中智行)は、どんなに膨大な書物でも一度読んだだけで完璧に暗記する力がある。彼は老齢の医師・猪狩義正(阿部丈二)と出会い友達となるが、猪狩は実は病に侵されていた。光紀が余命わずかな猪狩に触ると、彼の70年に及ぶ人生の記憶が流れ込んでくる。そこには確執の末に家を出た息子の悠介(大内厚雄)への隠された思いが……。
光紀の力は裏返してみれば、忘れたいことも忘れられないということ。時にそれは辛いことなのだろうが、「僕は忘れないんです」と笑顔で演じる畑中には、光紀の引き出しの大きさを感じさせる説得力があった。さらに、阿部と大内の好演が不器用な父親の息子への思いを引き立たせて胸が打たれる。キャラメルボックスならではの恩田ワールドの立体化には原作のファンも充分に楽しめるはずだ。
いつもハーフタイムシアターを観て感心するのは、60分の短い上演時間ながら、観ている間はそれが短編だと感じない見応えがあることだ。観劇後に時計を見るとたった1時間しか経っていないのかと不思議な感覚に陥る。それは短編と言いながらも決して物語の断片ではなく、1本の作品の魅力を十二分に描き出しているからなのだろう。何気なく過ごしてしまいがちな60分を、ぜひ観劇に費やしてみてほしい。公演は22日(日)まで同劇場にて、その後3月5日(木)から29日(日)まで東京・新宿FACEにて。
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