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平埜生成、戸谷公人をはじめとするアミューズの若手俳優が出演する、舞台『見上げればあの日と同じ空』が、5月21日、東京・下北沢の本多劇場にて初日の幕を開けた。
オリンピック候補として注目されながら、特攻隊として出撃し還らなかったマラソンランナー成瀬勇と、そのチームメイトにして宿敵の大橋公造。作品はこのふたりを軸に特攻隊員たちの青春を描いたもので、2013年の初演時から大きな反響を呼び、今回の再演が実現した。
初演に引き続き、不器用な優しさを持つライバルを戸谷公人、映画好きの学徒兵を松島庄汰、熱血漢の飛行兵を伊藤直人が好演。再演では、死に直面する若者たちという難しい題材にぶつかっていくひたむきさに加え、それぞれの役をひとりの若者として理解し、表現しようとする姿勢がうかがえるように。彼らの持つ若さが役と密接に重なり合い、若い観客たちを惹きつける様子から、彼らが初演で得たものの大きさが感じられた。
また、大きな熱量を放つ若者たちの空気を要所要所で引き締めているのが、軍人気質のパイロット役の向野章太郎(劇団プレステージ)と隊長役の土屋裕一(*pnish*)だ。ふたりのベテランが表現する軍隊の冷徹さと不条理さは、時代を超えて変わることのない若さの輝きを際立たせる。また、そんな揺るがないふたりだからこそ、彼らが真情を吐露する場面は、観る者の心を揺さぶる。
そして、今回の再演では新キャストとして平埜生成、木下美咲、そして溝口琢矢が参加。平埜は死と守りたいものの狭間で揺れ動く、人間らしい振り幅を持った新たな成瀬像を戸谷とのコンビで演じ切っている。また、溝口はこの座組の最年少でありながら、ストーリーテラーとしての役割を持つ学徒兵・渡辺に挑戦。さらに成瀬の許嫁役・さゆりを演じる木下は唯一の女性キャストとして新しい明日を生き、未来をつなぐ妻≠ニしての決意と希望を体現してみせる。
さらに、さゆりの父を演じる久ヶ沢徹は、父娘の情愛というテーマを力むことなく、ときに笑いを織り交ぜながら表現。成瀬につらい言葉を告げる場面では、その凄みに圧倒されるはず。さらに父親としてだけではなく、軍人以外の一般の大人として、世間を象徴し劇空間を力強く支えている。
緻密なシチュエーションコメディの書き手として定評のある小峯だが、この作品でも緻密な構成力を発揮。さらに彼自身が特攻という史実からすくい取った「あの時代を生きた若者も、今の若者も変わらない」という思いを出発点に物語を紡いだ。
その小峯の思いを受けた演出の及川は、出撃を待つ特攻隊員たちの日々と、仲間や恋人、家族との絆を通じて、そこに今と変わらない輝かしい青春があったことを丁寧に描き出す。彼らの輝きが増せば増すほど、観客はその彼らを飲み込んだ時代の過酷さを肌で感じることになる。そこから導かれる答えは人それぞれだが、観終わったあと、先人からなにかを手渡されたような気持ちになる作品だ。
東京公演は5月25日(日)まで。その後大阪でも公演。
取材・文:小杉 厚
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