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こまつ座&世田谷パブリックシアター『藪原検校』が2月23日、東京・世田谷パブリックシアターで開幕した。盲目に生まれつき、盲人の最高位である検校に上り詰めようと悪の限りを尽くす二代目藪原検校という架空の人物の生涯を、井上ひさしが力強い筆致で描いた偽評伝劇。井上戯曲の中でも最高傑作のひとつとして挙げられることも多い傑作だ。主人公・二代目藪原検校は、2012年にも主演し絶賛された、野村萬斎が演じる。
時は江戸、東北塩釜。親の因果から盲に生まれた杉の市は、手癖が悪ければ手も早い生まれながらの悪党。師匠の女房を寝取り、挙句の果てにいざこざから人を殺めてしまう。運命の坂を転がり落ちるように師匠、実の母と殺人を重ねていく彼が目指すのは、盲人の最高位である検校の位。様々な悪事の上、江戸の地で藪原検校のもと貸し金の取立てで頭角をあらわし、ついに二代目藪原検校の襲名も目前に迫るが……。
“目明き”に対する強いコンプレックスから、揺るぎない地位につくことに執着し、そのためには手段は選ばない。大悪事の数々を躊躇なく重ねる杉の市だが、その行動原理はシンプルだ。萬斎は、そのコンプレックスから生まれるパワーを荒々しくも軽妙に体現していく。欲望を全身から立ち昇らせる萬斎・杉の市は生命力に溢れている。ふだんの彼の端整な顔立ちが想像できないほど下品に顔をゆがませ、エネルギッシュに演じる姿に、目をそらせない。
演出を手掛けるのは、井上戯曲に精通した栗山民也。長めの暗転で完全な暗闇を作り盲人たちの世界に誘う幕開けから、俳優たちの声を重ねることで鐘の音や犬の鳴き声、町の賑わいなどの風景を生み出すという聴覚に訴える演出で、杉の市が生きた“音だけの世界”を描いていく手腕が鮮やかだ。
非道がすぎてユーモラスに見えてくる杉の市の生き様は愉快だが、笑いののち最後に、社会の中で排除されるマイノリティといった問題を冷ややかに突きつけられ背筋が寒くなる。その問題は、物語の舞台である江戸時代だろうと、作品が初演された1970年代だろうと、現代であろうと変わらず存在する。解決しなければいけない問題に目を背けないことこそが重要なのだという作者のメッセージが聞こえた気がした。
初日公演を終えた萬斎は「栗山さんと、栗山さんの演出に馴染みの深いキャストのチームワークにより、作品のひとつひとつの構造が浮かび上がる、より進化した『藪原検校』になりました。初日とは思えない出来栄えになったのではと思いますし、私自身初演を上回る充実感を得ることができました。ぜひ多くのお客様にご覧いただきたいと思います」とコメントを発表。公演は3月20日(金)まで同劇場にて。チケットは発売中。
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