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演 劇

1936年にノーベル文学賞を受賞したアメリカの巨匠劇作家ユージン・オニール。その最高傑作『夜への長い旅路』には、麻実れい、田中圭、満島真之介、益岡徹のきらびやかな実力派が結集し、この4人を、濃密でドラマティックな舞台作りで注目を集める演出家・熊林弘高が束ねる。家族の悲劇を生々しく描くこの舞台の初日をレポートしよう。
うす暗い照明の下、濃い茶色の板の間が舞台中央に横たわる。その左右両脇に広がる灰色の砂。タイロン一家の別荘である。客席通路の階段を、満島真之介演じるエドマンドが無言で降りてきて、舞台は始まる。4人家族の壮絶ないさかいの記録。たった1日の物語。
麻実れいが演じる妻のメアリーは、全身が一本の美しい線。知的でもの静かな女性だが、次男の結核を認められず、また、深刻な麻薬中毒に陥っていて、その言動は不安定だ。感情と視線と手の動きが、絶え間なく漂っている。静謐で、気高い狂気。
田中圭の長男ジェイミーは、恐らく、この一家で一番、残酷な真実から目をそらさずにいる男だ。母の麻薬中毒についても、弟の結核についても、躊躇なく直言。田中圭が、まっすぐ俊敏なセリフと動作でこの男を描く。その言葉の刃は、家族も自分も傷つける。
次男エドマンドの満島真之介。母メアリーと深い情愛でつながる。繰り返される母親との強いスキンシップ。へらず口は叩くが、家族全員に対して愛情を隠さない末っ子は、小さな咳が止まらない。死への恐怖か、時として、ふっと暗い表情で目を伏せる。
多弁でエネルギッシュ、怒りっぽいのが益岡徹の父ジェイムズ。妻の麻薬中毒を心配し、次男の結核に心を痛め、長男の怠惰な生活を叱る。大きな声、まくしたてる口調、威圧的な物言い。複雑な人物を、ベテランが振れ幅の大きい演技で描く。
言葉の応酬だけでなく、身体の接触を最大限に使う。熊林弘高の演出にはおなじみの光景だ。鼻が接触する距離で怒鳴りあう。つかみ合い、相手を床にねじふせる。胸に飛び込み、すがりついて甘え、頬に唇を寄せる。
ラストの暗闇に消えていく、妻メアリーの長く哀しいモノローグが語るもの。それは、この家族の本当の崩壊か、それとも、再生の予感か。客席のひとりひとりが、大切な人のことを考えながら帰り道につく、そんな舞台だった。
公演は9月23日(水)まで東京・シアタートラムにて。大阪公演は、9月26日(土)から29日(火)まで、梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて。チケットは発売中。
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