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中村獅童が座頭を務める京都・四條南座の九月花形歌舞伎『あらしのよるに』が、9月3日に開幕した。本作は1994年に出版された、きむらゆういちのベストセラー絵本『あらしのよるに』を原作に作られた新作歌舞伎。獅童が「いつか歌舞伎で上演したい」と切望していた、思い入れの深い作品だ。
ある嵐の夜に真っ暗な小屋で出会った狼のがぶと山羊のめい。本来なら食う側と食われる側の間柄でありながら、互いの姿が見えない二匹は話をしているうちに意気投合し、「あらしのよるに」を合言葉に決めて翌日の再会を約束。無事再会を果たし、その姿を見て驚いたものの、“心”で繋がり合う二匹は次第に友情を深めていくが…。
絵本を題材にしているだけに、歌舞伎初心者でも分かりやすい内容。それでいて獅童曰く「古典歌舞伎にこだわった」という舞台は、豪快な立廻りに、美しい舞踊、見得、廻り舞台、独特の歩みで花道を退場していく六方…と、歌舞伎の魅力を堪能できる。また、ひびのこづえが手掛ける衣装がそれぞれの動物らしさを引き出しており、山羊は白を基調に柔らかくて優しい雰囲気、狼は黒を基調に強くて荒い雰囲気を演出している。
主人公の狼・がぶは、仲間の狼からバカにされる鼻つまみ者で、山羊のめいは美少年風。演じる獅童と尾上松也の距離感や息ぴったりの掛け合いが微笑ましく、「友達なのに美味しそう…」と、食べたい衝動を必死に抑える獅童の、オーバー気味の演技が義太夫のユニークな語りと相まって客席の笑いを誘う。また、この二匹の仇となる狼・ぎろを演じる市川月乃助はゾクッとするほどの存在感を放ち、山羊・みい姫を演じる中村梅枝は、はんなりとした美しさを醸し出し、めいの幼馴染の山羊・たぷを演じる中村萬太郎は友達思いの山羊を柔らかさの中に強さを秘めて魅せる。
古典の歌舞伎をベースに、誰もが知る羊の童謡を三味線で取り入れるなど、遊びもたっぷり。子ども向けアニメと歌舞伎が融合した舞台の成功を、カーテンコールでのいつまでも鳴りやまない拍手が表していた。「稽古期間1週間で作り上げた」という舞台は、これからさらに磨かれ、どんどん面白くなるはずだ。
開幕前に行われた囲み取材では、「幅広い世代に楽しんでいただける作品に仕上がりました。歌舞伎を観たことがない人にも楽しんでほしい」と獅童が語り、松也は「歌舞伎ならではのいろんな要素が詰まっていて、隙間なく楽しんでいただけます。肩の力を抜いてご覧いただければ」とコメントした。
公演は9月26日(土)まで京都・南座にて上演。9月21日(月・祝)16:00公演は、ぴあ×南座スペシャルデー貸切公演として、中村獅童らによるアフタートークショー、『あらしのよるに』オリジナルグッズと出演者サイン色紙が10名に当たる抽選も行われる。チケットは発売中。
取材・文:黒石悦子
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