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『ウエスト・サイド・ストーリー』の作詞や『Into the Woods』などで知られるミュージカル界の巨匠スティーブン・ソンドハイムによる『パッション』が10月16日(金)より東京・新国立劇場で開幕する。井上芳雄、和音美桜、シルビア・グラブ、福井貴一ら実力派をキャストに迎え、愛し、愛されることの本質を問いかける本作の稽古場に足を運んだ。
本作は“愛の情熱”を意味するイタリア映画『パッション・ダモーレ』をミュージカル化したもの。恋人・クララとの愛に燃える兵士ジョルジオは赴任先で出会った病弱なフォスカから執拗で熱烈な愛をぶつけられる。当初はフォスカを冷たくあしらっていたのだが、やがて……。
取材したこの日は、終盤にかけての各シーンの稽古が行われていた。一つひとつのやり取りの中で、ジョルジオの心がクララを想いつつも、命の残り火のわずかなフォスカへと、どうしようもなく揺れ動き、傾いていくさまが見て取れる。まずはミラノ駅でのクララとジョルジオのやり取り。満面の笑みでジョルジオを迎えたクララだが、彼は長期休暇をわずか4日で切り上げることを告げる。そこにフォスカの影を感じるクララ。決して愛が醒めたわけではないのに、ふたりの間には確実に、以前にはなかった溝が横たわり、互いへ向けられる愛の言葉はすれ違い、噛みあわない。
井上が演出の宮田慶子と幾度も話し合っていたのがジョルジオの感情の揺れのさじ加減。クララを愛してもいるし、フォスカから離れられない気持ちもある――。宮田からはジョルジオの「わかんないんだ!」というセリフに触れ「本音で悩んでいるからこそ苦しく、哀しい」とアドバイス。
続いてクリスマスパーティでジョルジオ、フォスカ、そして彼女の従兄でジョルジオにとっては上官であるリッチ大佐らが集うシーン。ジョルジオの異動の通知、クララからの手紙、クララとジョルジオのある決断、嘆き、感情の爆発――運命の歯車が一気に動き出す。ここで改めて感じさせられるのがソンドハイムによる楽曲の難易度の高さだ。リズム、音程いずれをとっても、人気ミュージカルらしからぬ、そう簡単には口ずさめそうにない曲が続くが、それでも井上をはじめ、キャスト陣は力強い歌声で感情を紡いでいく。何より、この難解さ、複雑さこそが、決してひと筋縄ではいかない入り組んだ彼らの“愛”を表しているようにも感じられる。絶望の淵でほとばしる激情、別離の哀しみの中からも伝わってくる温かみ、命が尽きようとするか弱さの中からなぜか感じられる炎のように強い愛情。それぞれが難しくも熱い愛の情熱を歌い上げていた。
公演は10月16日(金)から11月8日(日)まで新国立劇場にて上演。チケットは一部日程の追加席を発売中。また。各公演当日の午前10時より新国立劇場ボックスオフィス窓口にてZ席を販売する。
取材・文・撮影:黒豆直樹
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