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現代アメリカ演劇を代表する劇作家デイヴィッド・マメットのふたり芝居『オレアナ』が11月6日(金)、東京・PARCO劇場にて開幕する。日本での3度目の上演にあたり、演出(栗山民也)と翻訳(小田島恒志)を一新。確かな存在感で高い評価を得ている実力派、田中哲司と、豊かな可能性を秘めて初舞台に挑む志田未来の新鮮な顔合わせが注目されている。物語の舞台は研究室という“密室”だ。大学教師のジョンと女子大生のキャロル、ふたりの会話はどこまでも噛み合わず、その不協和音は思わぬ事件へと発展していく。“セクシャル・ハラスメント”が社会問題として注視される契機となった作品だが、新演出を手掛ける栗山は「この作品においてセクハラは一番の問題ではない。なぜセクハラがマメットの気持ちを動かしたのか、それは言葉の持つ曖昧さにある」と語る。
「どこの段階からどこの段階がセクハラなのか、という定義は何もない。そんなつもりはなかったのに…という曖昧で無意識なものが作用して、大きな事件に膨れ上がるんです。ようは、冷戦後の90年代からの世界はある物事が起きてもそこにひとつの解答なんてない、という“不確定性の時代”に入っているんですね。世界のパワーバランスに変化が起きた。むしろセクハラよりも重要なのは、ディスコミュニケーションの問題ですね。ふたりの会話はいつまでたっても成立せず、最後まで組みしない。それまでの劇作家は、愛について、幸せについて語るために、ふたりが何かひとつの物事に向けてまっしぐらに進む様子を描いてきた。でもこのふたりは全然違うベクトルに向かっている。だからもし先輩の劇作家がいたなら“どちらかはっきりさせろ”と言うだろうね(笑)。だけどマメットは“この曖昧さ、不確定性こそ、現代である”という描き方をしたわけです」
稽古場を覗くと、わずかに傾斜した舞台面に、不安定に机やソファが置かれたジョンの研究室のセットがあり、その中で田中と志田が対峙していた。田中をじっと凝視したままの志田と、まるでその視線から逃れるように落ち着きなく電話に応対している田中。なにげない幕開きの風景だが、そこかしこに一触即発の空気が張りつめているのがわかる。
「志田さんは、演劇のことをまだよく知らないところが、逆にいい。全身で相手をグッと見る、不思議な強い集中力を持っていて、すごく純粋に役と向き合っています。田中さんは、居方が妙に芝居っぽくなく、柔らかい。。俳優の仕事は劇作家の残した言葉を今に具象化することで、その身体から歴史の記憶が見えてこないといけない。田中哲司は、それに近い身体を持っている俳優だなと感じます」
緊迫の糸は最後まで緩むことはない。「“演劇は関係性の上で起こる、生きた衝撃の瞬間である”、それが作家のテーマだったんじゃないかな」と栗山。俳優にとっても、また観客にとってもまさしくパワープレイ。劇場でしか味わえない生々しい衝撃を受けとめたい。
東京公演は11月6日(金)から29日(日)まで。その後、全国を巡演。
取材・文 上野紀子
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