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現代作家が能の物語に着想を得て新作を書き下ろす「現代能楽集」シリーズの第8弾、マキノノゾミ作・演出の『道玄坂綺譚』が11月8日、東京・世田谷パブリックシアターで開幕した。能の『卒都婆小町』と『熊野』を三島由紀夫が近代劇に翻案した「近代能楽集」の『卒塔婆小町』と『熊野』を、マキノがさらに現代劇に翻案した多重構造の大作。と聞くと、能や文学に精通していないと楽しめない難解な作品のように感じられるかもしれないが、さにあらず。マキノは二作をオムニバスとして並べるのではなく、現代の渋谷を舞台のひとつの物語に編み上げることで、重厚さのなかに軽やかな味わいが漂う快作に仕立てて見せた。
第一場の舞台は、渋谷の繁華街にあるネットカフェ。店員ふたり(水田航生、根岸拓哉)の会話は若者言葉の応酬で、そこに古典や近代劇の気配は微塵もないが、実はこの場面にすでに『卒塔婆小町』と『熊野』の登場人物が勢ぞろいしているという周到な幕開けだ。長期滞在客の年齢不詳の女 (一路真輝)と店員のキーチ(平岡祐太)は第二場、洋館に住む美しき令嬢・小町と彼女に想いを寄せる青年将校・深草貴一郎に。家出少女ユヤ(倉科カナ)と謎の紳士・宗盛(眞島秀和)は第三場、ある契約を結んで熊野(ゆや)と宗盛のような庇護関係に。二幕に入ると、宗盛にスマホの利用を禁じられたユヤの未来、そして小町と貴一郎を描いた映画の裏側と、物語は「近代能楽集」から大きく飛躍して展開されていく。
『卒塔婆小町』と『熊野』、現在と過去と未来、そして現実と幻想…。何層もの背反要素の間を自在に行き来しながら進むこの綺譚が、どう“快作”として帰着していくのかは、観てのお楽しみ。どこをどう切り取ってもそれだけで十分面白い物語に、想像もしなかった“オチ”がついた時、誰もがマキノの緻密な構成力に舌を巻かずにはいられなくなることだろう。古典に材をとっても幻想を絡めても、やはりマキノはウェルメイドの名手なのだ。
そんな緻密な劇世界を成立させているのが、達者な役者陣。本作では、例えば平岡ならネットカフェ店員のキーチ、青年将校の深草貴一郎、映画で深草を演じた俳優の佐伯というように、ひとりが複数の役に扮している。それぞれの役は言葉遣いが大きく異なるため、役者は場面ごとに使い分ける必要があるわけだが、作品の性質上、全くの別人に見えてしまってもまた面白くない。その微妙なラインを各人が丁寧に捉えて演じていたなかでも、とりわけ印象に残るのが一路だ。強烈な臭いを放つ老婆 から気品あふれる令嬢までを多彩な語り口で演じ分けたほか、情感豊かな歌声も披露し、確かな存在感を示した。
公演は11月21日(土)まで、東京・世田谷パブリックシアターにて。
取材・文:町田麻子
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