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三島由紀夫の最後の戯曲『ライ王のテラス』が、演出・宮本亜門、主演・鈴木亮平で、47年ぶりに上演されている。世界遺産「バイヨン寺院」を建設したカンボジア王の物語に三島が託したものは何だったのか。3月4日に開幕したばかりの舞台の模様を報告する。
この戯曲が誕生したのは、三島がアンコールトムを訪れたことがきっかけだ。カンボジア最強の王と語り継がれるジャヤ・ヴァルマン七世の美しい彫像を目にした三島はすぐに、その完璧な肉体が病に冒されていく物語を着想したという。ゆえに、王を演じる鈴木に求められたのは、まずは肉体の美しさだった。幕が開くと、その期待は否応なく高まる。宮本が自らカンボジアでオーディションをして選んだダンサーたちが民族的な舞踊を見せながら、王が見事に戦勝した様子が影絵を使って語られるのだ。カンボジアの音楽が流れ、劇場が中世のカンボジアの空気に包まれるなか現れる凛々しい王の影。そしていよいよ、第二王妃(倉科カナ)と第一王妃(中村中)が待つところに、彫像のような肉体に仕上げた鈴木が登場する。説得力は十分である。
しかし、真骨頂はそこからである。民のためにと「バイヨン寺院」の建設を始めるとともに病魔に冒される王。第二王妃は献身的に支え続けるも、王の美しさが蝕まれていくことに耐えられないと彼を避ける第一王妃が王の苦悩を深くする。舞台ではもちろん肉体自体を変えることはできない。にもかかわらず、その存在に何とも言えない心もとなさがにじむ。健やかで自信にあふれた大きな王から、瞬時に見せた鈴木のその変化。“演じる”ということが見せてくれるものの力を、改めて感じることができる。
王の肉体が崩壊していくに従って、観世音菩薩を模したバイヨンが完成していく様を、三島は、自分の全存在を芸術作品に移譲して滅びてゆく芸術家の人生に重ねたのだそうだ。舞台の上で、なぜ自分は病になったのかと自問自答する王の姿は、人は何のために生きるのかと、観客に問いかけてくるようでもある。王の病を利用して国の転覆を目論む宰相(神保悟志)や、愛する息子が苦しむ姿を見ていられないと毒殺を企てる王太后(鳳蘭)の人間の業にも、揺さぶられる。宮本曰く、「人間の本質を見たくないところまでえぐり出す」という三島文学の魅力を、まさにナマの肉体が体現した舞台であった。
公演は3月17日(木)まで、東京・赤坂ACTシアターにて。
取材・文:大内弓子
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