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演 劇
9月6日。初日を1か月後に控えた舞台『鱈々』の顔合わせが行われた。
韓国の戯曲が、6都市ツアーを含むこれほどの規模で上演されるのは日本ではほぼ初めて。稽古を始める前に劇作家・李康白氏から、この日のために届いたというメッセージが読み上げられる。
「戯曲は紙に書かれた文字です。その文字を、舞台の上で生き生きと動き回る生命体にするには、皆さんに体を与えてもらい、魂を吹き込んでもらわなければなりません」と始まる文章には、演出:栗山民也への敬意や、康白氏の令嬢がキャストの藤原竜也ファンだということも記され、カンパニーを大いに激励する内容だった。
続いて挨拶を求められた栗山も「最近の日本は、何もかもを“わかりやすさ”で括ろうとする危険な状態にあります。だからこそ他者や種々の出来事に対し、自分の視点からきちんと問い掛けることが、混迷する現代日本を生き伸びるためには不可欠。この戯曲には、そんな、今の日本から失われたものが多々含まれている。目に見えぬ大切なものを見つけるために最適の戯曲を、皆さんと共に舞台に立ち上げたいと思っています」と、康白氏の言葉を引き継ぐように檄を飛ばした。
戯曲は冒頭から真面目で几帳面なジャーン=藤原竜也と、やや投げやりで粗暴なキーム=山本裕典、ふたりのやりとりが延々と続き、稽古場はあっという間にふたりが暮らす薄暗い倉庫、その息苦しいような雰囲気へと塗り替えられていく。同じ仕事、意味も理由もあいまいな作業を繰り返す日々にうんざりし、イラつくキームを穏やかに誠実になだめるジャーン。初回とは思えぬほど藤原&山本のコンビネーションが良く、時に周囲に笑いも巻き起こしながら、会話はどんどんテンポアップしていく。
場が変わって中村ゆり演じるミス・ダーリンが登場。男たちとは別の角度から、自身の人生をなんとか変えようと足掻くダーリンを、中村は繊細にしなやかに表現する。彼女の父親でトラック運転手役の木場勝己は、その登場から倉庫にそれまであった、退屈な平穏をぶち破る衝撃。圧倒的な声量と迫力が、場の空気を震わせる。
閉塞した劇中の状況とは裏腹に、本読みはスピーディに進み、一度の休憩を挟んだものの100分程度でラストまで駆け抜けた。
「面白いホンだよね。平凡な日常を描いているようで実は、人物や倉庫から出し入れされる大量の箱の存在など、非常に象徴的かつ寓話的で、観る者に多くを想像させる。稽古では、観客がさらなる想像を膨らませられるよう、色々なことを仕込んでいこうと思う」と、栗山。4人の俳優たちも、それぞれ思うところのある表情で席を立っていった。
秘密や謎の多い戯曲に、エネルギッシュな4人の俳優と演出家が挑む。その先にどんな舞台が生まれるかはまだわからないが、多くの観客が“未知”の演劇に触れられる。そんな予感を強くした一日だった。
公演は10月7日(金)から30日(日)まで東京・天王洲 銀河劇場にて。その後、長野、大阪、鹿児島、福岡、静岡を巡演。
取材・文:SORA ONOE
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