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孤独な王子が男性ダンサー演じる妖しくも美しい白鳥と出会う『白鳥の湖』、大ヒット映画を大胆にバレエ化した『シザーハンズ』など、独創的な演出・振付と、美学に貫かれたセットや衣装で熱狂的なファンをもつマシュー・ボーン。今回の『眠れる森の美女』は、彼が手がけてきた『白鳥の湖』『くるみ割り人形』に続く“3大バレエ”の完結編。ボーン率いる〈ニュー・アドベンチャーズ〉が2012年にロンドンで初演して人気となった作品で、待望の来日公演を果たしている。
古典バレエの大作として知られる『眠れる〜』は、ダンサーたちの高度なテクニックが連続して披露される、バレエファンにはたまらない作品。だが場面展開がゆるやかなため、門外漢の目には少々退屈に映ってしまうのも事実だ。だがこのマシュー・ボーン版では、チャイコフスキーの音楽は存分に生かした上で、親しみやすいキャラクターとわかりやすくテンポのいいストーリーで展開。紗幕に「むかしむかしあるところに……」という文字が浮かんで始まる第1幕は、オーロラ姫の誕生を「1890年」に設定。赤ん坊のお祝いに妖精たちがやってくるのは古典バレエと同じだが、チュチュを着たリラの精ではなく、ゴシックテイストのダークな衣装に身を包んだ妖精の王・ライラック伯爵というのがボーンらしい。
また「物語の最後でオーロラ姫と王子が初めて恋に落ちるのは、説得力に欠ける」(ボーン)ということで、オーロラ姫が二十歳を迎える第2幕「1911年」では、狩猟番の青年レオとすでに恋仲という設定に。自立心旺盛なオーロラと、彼女を100年愛し通すレオとのチャーミングなカップルが誕生した。一方、黒づくめの服に白いロングコートをなびかせて登場するカラボスの息子カラドックも、冷たい眼差しがなんとも魅惑的。『白鳥〜』で王子を惑わすザ・ストレンジャー(黒鳥)しかり、芸術性とエンタメ性を融合させる心憎さは、ボーンの真骨頂だ。
物語は、100年後にオーロラが目覚める第3幕「2011年」、クライマックスの第4幕「きのう」と進んでいく。オーロラとレオがどういう結末を迎えるかは……実際にその目で確かめてもらうとして。ボーンの作品を観るたびに思うのは、ダンサーが形作る舞台上の“絵”と西洋美術との共通点だ。眠るオーロラに覆いかぶさるカラドックは、多くの画家たちが描いてきた“美女と夢魔”のイメージ。また、共に背に羽根をもつカラドックとライラック伯爵の戦いの場面は、“サタンを退治する大天使ミカエル”のモチーフそのものだ。コマ送りのフィルムのように浮かび上がる美しい“絵”は、もちろんボーンの意図するところだろう。さまざまな見方で愉しめる舞台。だからこそ、彼の作品はこんなにも魅力的なのだ。
マシュー・ボーンの『眠れる森の美女』は9月25日(日)まで、東京・東急シアターオーブにて。
取材・文 佐藤さくら
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