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ケラリーノ・サンドロヴィッチ(KERA)が世田谷パブリックシアターとタッグを組み、新作舞台『キネマと恋人』でシアタートラムの濃密な小空間に初挑戦する。ウディ・アレンの名画『カイロの紫のバラ』を大胆に翻案するロマンチック・コメディだ。
「僕にとっての映画は、ノスタルジーを求めてしまう存在。映画を題材にした舞台を作るとなると、自ずとロマンチックに収めていきたくなるんですよね。映画でミア・ファローが演じていた“映画を観ることしか楽しみのない女性”(緒川たまき)と、“映画から出てきた男”と“その男を演じている俳優”(妻夫木聡の二役)。この三人が展開するラブストーリーはそのままに、今回は物語の背景を1930年代の日本に置き変えて、ヒロインとその妹(ともさかりえ)との関係を膨らませるなど、もう少し複雑な話になっていくと思います」
映画の登場人物が突然スクリーンから飛び出してくる…という映画の一番の妙味を、演劇で効果的に見せるためにKERAが頼った強力な助っ人が、振付の小野寺修二と映像監修の上田大樹だ。
「小野寺くんはすでにプレ稽古を始めてくれていて、アイデアを見せてくれたんですね。それが素晴らしくて非常に刺激になりました。そこに映像効果――何と言っても映画を重要なモチーフにした作品ですから――もあいまって、勝算はありますね。今回、ふたりの仕事のボリュームは普段よりもかなり大きいです」
そのシーンを体現するのが、満を持してKERA舞台に迎える妻夫木聡である。「彼はニュートラルでありながら、レッドゾーンに振り切るような芝居をリアルにできる。演劇に求められるリアリティを瞬時に把握して、表わすことのできる俳優さんだと思いますね。緒川さんは劇場とのプロダクション会議から参加してくれてます。ミア・ファローとはまた別の味わいでヒロインを演じてくれるでしょう。このふたりにともさかさんを始めとした手練7人が加わって、面白くならないはずがないでしょ?」
ロマンスに心ときめかされるが、映画の終わりはホロリと苦い。KERAも「まだ結末は決まっていないけど、ビターなものにはなるでしょうね」と見据える。「僕自身つねに現実から逃げたくて作品を作っているようなところがあるけど、でも結局、作品の中で生きることはできても、作品の中で死ぬことはできない。やっぱり現実に立ち戻らなければいけない…という人たちの話です」
豪華キャストによるKERAの新作を小劇場で味わう贅沢な機会。虚構と現実を行き交う人々の愛しくも哀しいドラマに浸りたい。「自分のキャリアの最高傑作にする意気込みです。こんなに前もって『最高傑作にする!』なんて吹聴するのは初めてのことなんですよ(笑)。何年かして振り返った時に、『あれは文句なしに良かった』と思える公演になると確信しています」
公演は11月15日(火)から12月4日(日)まで東京・シアタートラムにて。
取材・文 上野紀子
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