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3月26日、近代能楽集より『葵上・卒塔婆小町』が東京で幕を開けた。三島由紀夫作、美輪明宏が、演出・美術・衣裳・音楽・振付・主演を担うこの舞台。7年ぶりとなる上演には、その才がすべて注ぎ込まれ、時空を超えたドラマが、妖しくも確かな手応えを持って届けられた。
<葵上>の幕が上がると、まず目に飛び込んでくるのは、シュール・リアリズムを代表する画家、サルバドール・ダリの絵画が飛び出してきたようなセットだ。中央には、尾形光琳の筆を思わせるカバーのかかったベッドが置かれ、その奥には室町風の巨大な着物がかかる。そこは病院なのだが、どこかこの世ならざる気配を漂わせ、観客は一瞬にして異界に入り込む。しかも時は深夜。美貌の青年・若林光(木村彰吾)が病に伏せる妻の葵を見舞うと、そこに、かつて恋仲にあった六条康子(美輪)が現れ、ふたりが心を通わせた過去へと連れて行く。長い黒髪に、黒のイブニングドレスとコートを纏って登場する美輪は、立っているだけで妖しく恐ろしい。が、再び光を取り戻そうとすがる姿に、女の情念が生々しく表れたりもする。『源氏物語』を元にした能から三島が描きたかったであろう、生霊となってまでも執着せずにはいられない人間の愚かさと愛おしさが、全身から伝わってくる。
<卒塔婆小町>が描くのは、小野小町を題材にした能・謡曲を元にした物語である。夜の公園。酔っ払った詩人(木村)がみすぼらしい老婆(美輪)に話しかけると、自分はかつて小町と呼ばれていたと言う。やがて、公園は明治時代の鹿鳴館の庭となり、詩人は深草少将に、そして老婆は美しい小町に変わり、ワルツを踊り始めるのだが、まずは美輪のその変身ぶりに驚かされることだろう。詩人も目の前いるのが本当は老婆だということを忘れその美しさに心奪われる。そして、小野小町と深草少将の百夜通い伝説を下敷きにしたこの物語は、美しい女を自分のものにしようとした途端、男に死を与えるのである。美を表現できる美輪だからこそ、美の空虚さがリアリティを持つ。難解なイメージのある三島作品だが、美輪の力がその意味を紐解いてくれるのだ。三島の真髄と美輪の真髄の両方を、この舞台は感じさせてくれるだろう。また、客席がずっと、やわらかな香の匂いに包まれていたことも印象的だった。観る人への美輪の思いは、隅々にまで行き渡っている。
公演は4月16日(日)まで、新国立劇場 中劇場にて。その後、宮城、静岡、愛知、長野、福岡、大阪、神奈川を巡演。
取材・文:大内弓子
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