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グレゴリー・ペックが新聞記者のジョーを、そしてオードリー・ヘプバーンがアン王女を演じた名作『ローマの休日』(1953年)。近年では、当時のアメリカで吹き荒れた“赤狩り”でハリウッドを追われた脚本家ダルトン・トランボが、名前を隠して原作を書いたことでも知られている。この舞台版では、脚本・演出担当のマキノノゾミが、ダルトンが抱えていた背景をジョーに投影。映画版の叙情性にひとさじの社会性を加え、2010年の初演時には見事、菊田一夫演劇賞を受賞した。今回は再々演にして、初演でアン王女を演じた朝海ひかるが復活。7月30日、東京・世田谷パブリックシアターで初日の幕が開いた。
1950年代のイタリア。新聞のローマ支局に勤めるアメリカ人記者ジョー(吉田栄作)は、ある晩、泥酔した様子の若い娘を部屋に泊めることになる。翌朝彼は、その娘が表敬訪問中の某国のアン王女(朝海)であること、さらに今朝の会見が中止になっていることを知る。早速スクープのネタにしようと、カメラマンのアーヴィング(小倉久寛)を呼び出し、アンを“ローマの休日”に連れ出すジョー。そんな中、アンは、ハリウッドのシナリオライターだったジョーが新聞記者をしている理由を聞かされる。一方のジョーも、次第に無邪気でまっすぐなアンに惹かれてゆき……。
吉田は安月給の記者に身をやつしながらも、アンとのやりとりの中に本来の誠実さをのぞかせるジョーを好演。しなやかな立ち姿がオードリーのアン王女そっくりの朝海は、コミカルな序盤から終盤の毅然とした振る舞いまで、生き生きと演じて魅力的だ。生硬さが持ち味のふたりに対し、小太りながら伊達男を気取るアーヴィング役、小倉の軽妙さが効いている。ジョーと自分が巻き込まれた“赤狩り”をアンに語る場面では、小倉の静かな語り口に味わいがある。ヘプバーンやイタリア名所を味わう映画版が水彩画とすれば、本作は、ジョーの物語を鉛筆で丁寧に描いたスケッチのおもむきだ。シンプルだが温かみにあふれた舞台は、物語に潜む普遍性をハッキリと浮き彫りにする。ジョーがふと漏らす“人生は、ままならない”という言葉に、アン王女が“私もそうよ”と返すシーンが、新たな感慨をもって胸に迫る。
初日の特別カーテンコールでは、吉田が「ひとつの作品に7年ごしに携われる幸せを感じています。こうして今日、舞台で生きていられることに感謝したい」と想いを込めて挨拶。朝海も「この作品に再び戻れることが出来て、本当に幸せです」と感動しきり。小倉が「今回は3回め(の上演)なので、ひと回りもふた回りも(演技を)大きくして……」と言いながら腹を揺らすと、客席からは大きな笑いが。舞台版ならではの温かさを存分に感じた初日となった。
公演は8月6日(日)まで。チケット発売中。
取材・文 佐藤さくら
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