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新国立劇場の2017/2018シーズン演劇公演『トロイ戦争は起こらない』が10月5日に開幕した。栗山民也を演出に迎え、鈴木亮平に一路真輝、鈴木杏、谷田歩ら実力派キャストが、フランス近代演劇の金字塔といわれるジロドゥの傑作に挑む! 初日直前の稽古場の模様をレポートする。
外交官でもあったジロドゥが第二次世界大戦開戦の4年前、ナチスが台頭する社会情勢の中で執筆した本作。トロイの木馬で知られるトロイ戦争の開戦をなんとか回避しようと奔走するトロイの将・エクトールの姿を通じ、戦争を繰り返す人間の愚かさ、哀しみをあぶりだしていく。
勇将と名高いエクトールだが、この物語で求められるのは“武”ではなく“智”であり言葉の力。栗山はジロドゥの戯曲について「英語のような論理性ではなく、モノローグとダイアローグが混在し、詩のよう」とその難しさを語るが「俳優の肉体を通すことで、その言葉が独特のリズムを持ち、物語を転がしていく」とも。鈴木は自らの大きな体躯を道具とし、言葉を共鳴させながら、戦争回避のための言葉を力強く繰り出していく。だが、その重い言葉の数々が目の前の人々の心に響かないところが、人間の愚かさであり、本作の面白さ。
戦争の原因は美女。エクトールの弟、トロイ王子・パリスがギリシャの王妃・エレーヌにひと目ぼれし、誘拐したことから一触即発の状態に陥るが、エクトールの父である王をはじめ、男たちはみなエレーヌに入れあげ「ギリシャにエレーヌを返すべき」というエクトールの言葉に耳を貸さず、「戦うべし」と勇ましい言葉ばかりを並べる。“国難”を前に、略奪愛&不倫で始まり「名誉は守られたのか? それとも一線を越えたのか?」と騒ぎ立てるさまは、まさに現代のどこかの国の状況そっくりである。
開戦か否かでいきり立つ男たちと対照的な女たちの姿も印象的。エクトールの妻で、彼を深く愛し信じる強い妻・アンドロマックを演じる鈴木杏、彼の妹で男たちを醒めた目で見つめるカッサンドルを江口。エクトールの母で戦争の愚かさとそれを望む男たちの醜悪さを鋭く指摘するエキューブを三田。栗山が「みんな動物的(笑)! 主張が体に満ちていて、それを相手にぶつけ、関係性が変化していく」と語るように、女優陣の寸鉄人を刺すような鋭いセリフの応酬は大きな見どころ。
中でも圧巻は、栗山が「ファムファタール」と語る絶世の美女で、一路演じるエレーヌ。白鳥に化けたゼウスと人間の間に生まれただけあって、終始、何とも言えぬ不思議な浮揚感を身にまとい、男たちを虜にし、グイグイと言葉で切り込んでいくエクトールの攻勢をひらりとかわす。
クライマックスはエクトールと谷田演じるギリシャの将・オデュッセウスの会談。共に戦いを望まぬ知将ふたりの話し合いが、なぜ、その後10年に及ぶ戦争へと繋がってしまうのか…? 栗山が「実に演劇的な仕掛けになっている!」と語る終幕の演出を含め、最後の最後まで目が離せない。公演は10月22日(日)まで東京・新国立劇場にて上演中。兵庫公演あり。
取材・文・撮影:黒豆直樹
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