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「老い」を巡る悲喜劇を橋爪功が円熟の演技で魅せる
2018年09月05日 15時30分 [演劇]
橋爪功 (C)吉田タカユキ
橋爪功 (C)吉田タカユキ

衰えていく肉体と精神に困惑する老父とフォローに疲弊していく娘。父娘を軸に、観客自身も高齢者の視点を体験するという斬新な手法で書かれ、フランス演劇賞最高位のモリエール賞最優秀脚本賞を受賞した『Le Pere 父』が2019年2月に上演される。

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作者フロリアン・ゼレールは教師から作家へと転身し、30代前半で今作を書き上げた俊才。現代版『リア王』とも呼ばれ、既に世界30か国以上で上演された戯曲の日本初演で主人公アンドレを演じるのは、舞台はもちろん映像作品でも第1線を走り続ける橋爪功だ。

「薄紙に包まれた劇薬。戯曲を一読し、そんな感想を持ちました。人が、普段はできれば考えたくない、直視したくない生命体としての不安や孤独に満ちていて、観終えたあと、安易に感想を言い合ったりしたくならない作品。だからこそ信頼して観客に丸投げできるし、同時に俳優の立場からは四の五の言えない逃げ場のなさが、現実逃避しがちな自分に良い刺激になるんじゃないかと思って」とニヤリと笑う橋爪の口元には、既にフランス的皮肉なウィットが浮かんでいる。

演出はオリジナル初演を手掛けたラディスラス・ショラー。橋爪は「所属する劇団は、かつて英・米・仏・北欧といった海外の演出家を招いた創作に熱心で、ひと通り手合わせした中でも、フランス人演出家は1番“言葉だけでは分かり合えない”印象が強かった。自分のスタイルが明確にあり、簡単には他人の意見に賛同しない。徹底した個人主義の文化圏から来る有能な若手演出家と、今の自分との間でどんな創造ができるのか楽しみですね」と、“はじめまして”から起こる化学反応を心待ちにしている様子だ。

場が進むごとにアンドレの記憶や意識は混乱し、時間軸や彼を囲む人々の役割も曖昧になっていく構成は、演者にとってハードルになりそうだが「長く生きていると、前夜何時間も悩んでいたのに、寝て起きたらスッと楽になるようなことがある。人はそうやって自分の中に蓄えてきた経験や知識、後悔の念などを、老いと共に今度は希釈することで命を長らえる生き物。そう考えるとアンドレの身に起こることは自然だし、本人にとって苦痛だけでもないはずだけれど、家族にはそれが“父親が壊れていく”という恐ろしい現実として映る。一方向に時間が流れず、場面やせりふが行ったり来たりするので覚えにくさはあるけれど、人間特有の、生き物としての変容を演じることは興味深いですね」と、橋爪の中での戯曲分析はかなり進んでいるよう。

人間なら誰しも避け得ない「老い」を巡る悲喜劇を、円熟の演技と艶で魅せてくれるであろう舞台を心待ちにしたい。

公演は2019年2月2日(土)から24日(日)まで、東京芸術劇場 シアターイースト、3月16日(土)・17日(日)兵庫県立芸術文化センター阪急中ホールほか、4か所にて上演。

取材・文:尾上そら

※『Le Pere 父』の正式表記は、「Pere」の「P」と「r」の間の「e」にアキュート・アクセントが付く

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