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片岡仁左衛門が、芸術祭十月大歌舞伎で『助六曲輪初桜』で主役・花川戸助六を、東京では仁左衛門襲名以来20年ぶりに演じる。公演に先立って、合同取材会が開かれた。
蛇の目傘を手に花道から颯爽と登場し、その場にいる全ての花魁たちからキセルを差し出される、江戸一の色男・助六は、顔、声、姿と三拍子揃う仁左衛門にはうってつけの役どころ。かつて上方役者ながら自身の襲名披露にこの演目を選んだのも、自然なことにすら思えてしまう。
「立役の役者はほとんどがやりたい役でしょうね」と仁左衛門は語る。「よく、大阪の役者、江戸の役者と言いますが、私は日本の役者。全てやりたかった。だから“新しい仁左衛門はこういう路線を行きますよ”ということで選んだんです。今は私が、助六を演じる最年長かなあ? この歳で勤められるのも有難いし、勤めておかないともう勤められなくなるし。千秋楽を迎えてもまだ課題は残っていると思いますけれども、私としては集大成の心構えで臨みたいですね」
「十八世中村勘三郎七回忌追善」と銘打つ今年の十月大歌舞伎。これまで仁左衛門の助六では必ず相手役・揚巻を勤めてきた坂東玉三郎は母・満江役に回り、新たに中村七之助が揚巻役に。実は助六の兄である白酒売新兵衛役には、中村勘九郎が扮する。「中村屋さんの家と『助六』は、私にとって繋がりが非常に深いんです。この演目を私が初演した時(1983年)は中村屋の十七代目のおじ様(中村勘三郎)に教えていただいて、その次にやった時(1991年)には十八代目(勘三郎、当時は勘九郎)が白酒売で出てくれました。十八代目は“自分も助六をやりたい”“やる時には兄ちゃん教えてよ”と。それが実現できなかった残念さ。今回は、勘九郎くんに思いを繋げて、傍で観ていてほしいと思いますし、七之助くんには、大和屋さん(玉三郎)の指導を受けて、ゆくゆくは揚巻役者になってほしい。そう期待しています」
仁左衛門といえば、華・様式美とリアルな心理描写の両方を見事に造形する役者。彼はどのようにこの芝居と向き合うのだろうか。「私が台詞において1番大事にしているのは、言葉を伝えるのではなく思いを伝えること。言葉に気持ちを乗せれば、台詞回しも変わってきますから。この助六は心理を深く掘り下げるというものではないけれど、かと言って上辺だけ、華やかさだけではダメ。その兼ね合いが大事ですよね。お客様に楽しんでいただくために、まずは役者が気持ちよく演じることが大事だとも思っています」
来年で、初舞台から70年。「短かったような、長かったような。大先輩の域に行き着けていない自分が恥ずかしい」と語るが、瑞々しさを湛えながら豊かな実りを見せるその芸は、いよいよ見逃せないものとなっている。
公演は10月1日(月)から25日(木)まで、東京・歌舞伎座にて。
取材・文:高橋彩子
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